2019年10月5日からTVアニメ版ドラえもんのOPをつとめた星野源の歌「ドラえもん」。2024年11月2日でその役目を終えました。元々は映画ドラ用の歌だったのにTV主題歌に抜擢され約5年使われたという特異な経歴を持つ歌です。
お疲れ様でしたという気持ちを込めて、ドラえもんファン目線でその功績について語っていこうと思います。
映画のEDとは思えない全振りアニソンとして登場。
元々はこの歌は2018年の映画「のび太の宝島」のED曲として用意されたものです。映画ドラは主題歌を毎回異なる人気アーティストに作ってもらうのが近年の主流で、歌詞が映画内容にしっかり寄り添う人もいれば、「ポケット」「ドア」等のフレーズでちょっと匂わせる程度だったりとアーティストによって距離感は様々ですが、ドラ映画用である事を抜きにしても一つの歌として成立しているものが基本です。
そんな中、星野源のは歌詞に「ドラえもん」というワードを入れるレベルのぶっちぎりのアニソンになっていて、他に使いようの無いレベルでドラえもんにゼロ距離まで近づいてくる歌に、こんな思い切った事してくるのか!面白い事するなと驚いた事を覚えてます。
内容は「映画ドラ全般」を歌った歌
この歌の内容は「のび太の宝島の曲」「映画ドラ全般の曲」「普段の短編ドラの曲」のどれかと言うと、軸足は「映画ドラ全般」です。それに短編ドラの要素もあり、さらに藤子・F・不二雄自体にも触れ、ざっくり宝島0:映画ドラ6:通常ドラ3:藤子1くらいの割合に感じます。
歌詞の中の具体的な所では
「冒険」「世界を救う」が映画ドラ全般の共通要素で、「機械が涙」「台風」はバギー、リルルやフー子等の具体的な過去映画ドラ、「落ちこぼれ、出来すぎ」「どどどどドラえもん」が通常ドラ、「少しだけ不思議」が藤子要素って感じです。
映画に寄り添う曲と自由なドラソングの2曲構成で対応。
星野源ドラは宝島用の曲とは言えない自由なドラソングですが、代わりに「ここにいないあなたへ」という別曲を用意してこっちは宝島の内容に特化しています。2曲提供の例は近年には無く、その手間をかけてでも提供する事で片方を、とにかく好きなようにドラの曲を作るという振り切りにしたというのは熱量も含め面白い試みをしたなと思います。
先に挿入歌の「ここにいないあなたへ」ができたんです。劇中で流れるということもあって、今回の『のび太の宝島』にしっかり寄り添った曲になりました。なので主題歌に関しては、映画シリーズの“大長編ドラえもん”全作に共通することを歌いたいと思ったんです。『のび太の宝島」からさらに飛躍して、もう少し大きな曲を作りたかった。
引用元:ドラえもんチャンネル「映画ドラえもん のび太の宝島」公開記念インタビュー
星野源のドラえもんへの熱量
ネット等で「星野源は以前からドラえもんファンだった」と書かれています。
星野源さん自体にそこまで詳しくないのですが、ざっと調べると
・TV Bros 2011年8/31号で、当時の所属グループSAKEROCKとして藤子・F・不二雄ミュージアムの開園前イベントに行く。
・2013年9月のMV「地獄でなぜ悪い」ではのび太っぽい作画のキャラを出す。(作画監督はドラえもん新鉄人兵団の浅野直之)。
などがあります。歌詞的にも大山ドラ映画をフルで見てないと書けないだろうなという内容ですし、どうやら本当のようです。
また今作に捧げる熱量も本物で、タイトルを「ドラえもん」にするのに藤子プロらの協力を得て特別に許可をもらったり、曲の途中に大山ドラ時代の名曲「ぼくドラえもん」のメロディを折り込み、実現するために作曲の菊池俊輔先生に許可をもらうはたらきかけもしており、かなり気合を入れています。
金曜→土曜引っ越しでのアニメOPに起用。掴みの大任を任せられる。
本来映画用だけで満了するはずだったこの歌、2019年10月にTVアニメのドラえもんOPとしても星野源ドラが起用されるというまさかの展開がやってきます。
この起用タイミングの頃はアニメ本編に大きな転機がありました。今まで金曜ゴールデンタイムに放送していたのが土曜17時に変更になったのです。放送時間的に視聴率が下がるのは確定的で、実際視聴率は下がりました。この状況で失速する事を避けるために少しでも話題を呼ぶ目的でそのスター性を期待されての起用という側面は強いのだと思います。星野源という圧倒的な知名度とカラオケ等でも人気の曲という形でドラを引っ張っていこうと。映画ドラ用に作った歌が本来の用途外の使われ方をされるわけで、ともすれば不似合いな客寄せ曲という評価にも成りかねない訳ですが、この曲が楽曲的に短編ドラにも耐えられるレベルの作りになっていため、ちゃんとTVドラOPがつとまっちゃった。という底力に「持ってるな。」と思いました。ドラマとかの「こんな事もあろうかと」みたいな展開のようです。
当初は1年予定だった。
そうしてTVアニメOPとしての新たな役目を果たしていくわけですが、星野源のインタビューで「元々は1年限定の予定だったが、好評のため5年続いた」旨の発言が確認されています。
「最初は1年間限定という話だった。『1年間も流してくれるんだ』という思いで。1年たった後に『すごく好評なので、もう1年お願いしたいです』と言っていただいて、結果的に5年間もオープニングテーマとして流していただいた」と楽曲の反響を語った。
引用元:毎日新聞2024/11/6「星野源「『ドラえもん』はずっと生き続けます」 2日放送分で見納めとなったアニメ主題歌への思いを語る」
なので、元々は掴みだけ任された限定的な起用だったのだと思われますが、それ以上に概ね好評に受け止められた。つまりこの起用は成功したのだと言えそうです。
短編ドラの専用曲として圧倒的に完成している「夢かな」への再引きつぎ。
それ以前のわさドラの主題歌と言えば「夢をかなえてドラえもん」で、112.5年も続いていたのがその完成度の高さと人気を証明しています。星野源ドラも良い歌ではありますが元々の制作意図の軸足が映画用の曲なので、通常の短編ドラ用の歌としては「夢かな」の方がアニソン度は高いです。
それゆえに、再度「夢かな」のOPを望む声はやはり存在していました。「スター性がある短編ドラ適正80%の歌」と「あくまでアニソンだが短編ドラ適正100%の歌」を比べたらマーケティング的に前者が続くのは理解できるが、ドラファンとしてはやはり後者を望ましく思う。と。
そして5年経過し、2024年9月あたりからドラえもんyoutubeチャンネルが本格始動するなど土曜放送だけに縛られない再リニューアル期に入ったように思います。このタイミングで再度「夢かな」に戻すという判断がされ、星野源は「光栄だった。すごく幸せだった」「この『ドラえもん』という楽曲はずっと生き続けます」というメッセージを残し勇退する事になりました。見事に役目を勤め上げたと思います。
まとめ
ドラえもんファンの私の目線から見た星野源ドラの功績は下記のようになります。
・映画用の歌という依頼に対し、映画専用に収まらない熱量で純粋なドラソングを作り、人気曲になった。
・TVアニメの金曜→土曜引っ越しというアニメ苦境の状況で星野源のスター性を期待して起用された(予想)。本来の制作意図を超えた使われ方だったが、それに耐えられる楽曲になっていた。
・1年限定のはずが、好評で5年支え続けた。
・TVアニメの歌としては「夢かな」の方が専用アニソン度が高いので再度引き継ぎ、勇退。
いち映画ソングという依頼に対し星野源はそれ以上のアウトプットで応え、そのアウトプットに対しTVアニメスタッフはただの映画ソングで終わらせない起用でさらに応えた。というとても興味深い関係性に思えました。本当にお疲れ様でした。
脚注
- 最初から夢かなだった訳ではなくわさドラの最初の半年は大山ドラと同じ「ドラえもんのうた」です。(歌なしインスト)これはスムーズな移行を意図していたのかもしれません。その後「ハグしちゃお」が1.5年続きましたが、歌詞にあまりドラ要素が無く決定打にはなりませんでした。 ↩︎
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