「ドラえもん 新・のび太の大魔境~ペコと5人の探検隊~」の感想レビューです。総合的な感想としては「原作の行間を丁寧に埋めて忠実に完成度を高めた作品。ジャイアンのリーダーの物語としての完成度が際立った。」という感じで高評価です。さらに言うと「ドラえもん映画初心者やドラ映画デビューする子供に、最初に見てほしい作品」です。それらの理由や感想、ここが惜しい!という所も書きます。
原作からある要素の感想も含みますが、できるだけリメイク版独自の要素に注目して感想を書いていこうと思います。
良い所
今作は大変満足の一本です。王道直球の物語をいじる事なく、ジャイアンを深掘りしたアップデート版という仕上がりになっています。
ガキ大将ジャイアンが、リーダーに成長する物語
今作のメインストーリーは犬の国の大冒険ですが、テーマはジャイアンとペコを軸とした「リーダーシップ」の話になっています。
なんでも言う通りにできるガキ大将のジャイアンだったが、しかし自身の迂闊な行動で皆をトラブルに巻き込んでしまい権力と責任は裏表という事を身にしみて実感。責任の取り方を足掻いている中、同じくバウワンコ王国の王子という立場のペコがクーデターで国民を助けられなかった事を悩みリーダーとしての務めを果たそうとしている姿を見て、ジャイアンもリーダーのあるべき姿を見出し成長していく。という話です。
原作にもあった要素ですが、今作では様々な場所で補強されています。
特に後半、巨神像の心臓部を動かすためには皆の力を揃えないといけなく、ジャイアンの掛け声に合わせて力を揃えるという風にした事でリーダーシップを発揮しているのがうまく、ガキ大将がリーダーとして一つ成長した形で描かれています。
のび太とサベール隊長の決闘にもジャイアンを間接的にからめています。原作ではのび太の思い切りで決着していましたが、今作ではのび太が勇気を出す所は一緒ですが、ジャイアン達が巨神像の心臓を作動させた事で足場がグラつきサベールがよろけた所を倒すという形になっています。またその偶然が起きる伏線としてペコとのび太の前夜の語りで「偶然100点取った、偶然ホームラン打った」と、いざという時にのび太は偶然を引き込むというのを印象付ける台詞が入ってます。心臓の作動はジャイアンによるものなので、間接的ながらジャイアンあってこそ決闘に勝てたという形になっているのもうまいまとめ方だと思います。
そして最後の別れも男同士の友情って感じで、のび太とは違う絆の見せ方が描かれており最後までジャイアンとペコという二人のリーダーを対等に描いていたのがいいと思います。
また先取り約束機で呼んだ2週目のドラえもん達、原作や旧作と違いジャイアンが先陣を切ってたり、ジャイアンが皆を気使う台詞が挿入されるなど、ギリギリ気づくレベルでちゃんとリーダーシップを発揮しているんですよね。1週目の経験がちゃんと活きているって感じで丁寧です。
ドラえもん映画の定番ど真ん中。初心者に最初に見てほしい1本。
この作品はドラえもん映画の基本形が全て詰まった作品と言えます。「異世界に冒険に行き、ゲストキャラと出会い絆を深め、事件を解決する」というもので、冒険のワクワク、ゲストとの感動、事件解決のスカッと感をバランス良く持つ黄金構成だと思います。今作はそれらを高レベルで叶えつつ、さらに未来の自分が助けに来るというSF(すこしふしぎ)もあり、そんな原作を現代クオリティでアップデートした作品になりました。
ドラえもん映画の初心者や子供が何から見たら良いかと言われたら、間違いなくこれを勧めます。全てを含んだ作品ですので何かは刺さるはずで、後はどの要素が刺さったか(ワクワク、感動、スカッと、SF…)で、2作目以降の作品を決めていけると思います。
惜しい所
ほとんど欠点の無い映画でしたが、ほんの僅かに気になるポイントです。
決戦前夜のペコとの語らい。のび太じゃなくてジャイアンだったら。
最近のドラ映画でお約束となっている「ゲストとのび太が夜に語り合い絆を深めるシーン」ですが、今作も原作に無い追加シーンとして登場します。
この追加はいいのですが、話し相手はのび太ではなくジャイアンにして欲しかったと切に望むシーンです。
のび太との語らいは、王の器かを自問するペコに対し、のび太はそれに応えていない無邪気なエピソードを話すだけでなんか話が噛み合っておらず、雰囲気仲良し演出になっています。のび太にとっては犬のペコなので、クンタック王子になった状態では話のレベルが合わないのは構造上避けられないのだと思います。
やはりここは相手をジャイアンにして、責任を感じているジャイアンがクンタック王子と語り合う事で上に立つ者の覚悟を感じ取り、リーダー(ガキ大将)とはどうあるべきかを自覚し後の行動に繋がる…ってやってほしかったです。これがあればジャイアンの物語として完璧だったと思います。
本当は監督もこうしたかったんじゃないかな…しかし製作関係者の「ここはのび太でしょ」って声に折れたのかな、なんて思います。下記のように譲った感が随所にありますし↓
ゲスト声優など「制作の都合を断れなかたった感」がチラホラ
今作はゲスト声優など営業面からの声を断れなかったのかなあという要素が多めで、作品の質に影響している部分もあるのが惜しい所です。八鍬監督は今作が初監督で若手の時期でしたので、そういう所もあったのかなと。
・芸能人によるゲスト声優多数
スピアナ姫(アナウンサー:夏目三久)
犬の雑兵ブルテリとバーナード(芸人:COWCOW)
サベール隊長(俳優:小栗旬)
・主題歌:ジャニーズ事務所アイドルグループKis-My-Ft2
・サブタイトル長くて説明的。「新・のび太の大魔境~ペコと5人の探検隊~」
その全てがマズいという事はなく、サベール隊長を演じた小栗旬についてはむしろ名演と言えるレベルで、Kis-My-Ft2の歌も十分に馴染んだ曲でこの辺までは問題なかったです。タイトルも最適とは思いませんが、まあ作品の質を下げてるという事もないでしょう。
ただスピアナ姫は重要な役を任せるには素人感が目立ちましたし、犬の雑兵も同様。特に雑兵は、チョイ役だったらいいんですが原作よりも目立つポジションで登場回数が多く、また「当たり前~!」と芸人の持ちネタを流れに関係に無く台詞に入れてくるなどドラ映画では通常やらないラインのお遊びを入れてきている所も残念な点です。(これがクレヨンしんちゃんなら問題ないんですけどね)
ちなみにKis-My-Ft2は歌もまあ良かったのですが、それよりもインタビューとかが面白かったのでやっぱ営業枠ってのも重要なのだなとも思い、この辺はバランスですね。
サベール隊長との決闘も、もっとジャイアンを強く絡めれたかも
良い所の説明で、サベール隊長との決闘にもジャイアン要素を絡めているのはうまいと書きましたが、とはいえ偶然を引き込んだというレベルなので、よりロジカルな勝利になってれば良かったとも思います。
サベール隊長は鼻が利くという犬らしい特技が追加されていましたが終盤使われる事はありませんでした。例えばここを犬のもう一つの特性、耳が良いに設定してわずかな音も聞き逃さないという形でドラえもん達の隠れているを見抜いて、耳の良さをそこで知ったジャイアンが、決闘シーンの時にのび太への援護としてジャイアンが大声を出してサベールにスキを作るといった展開だったらどうかな、と思いました。
終わりに
この王道作品を忠実に作る事、これはけっこう勇気がいる事だったと思います。旧作上映の頃はまだ3作目でこの王道形式自体が新鮮な時期だったなのに対し、その後これがテンプレとして扱われていった現代においてはマンネリとも言えるので「素の味」である今作は強いアレンジに晒される可能性もあったのですが、原作の力を信じて忠実に作った製作者に敬意を評します。
コメント