「のび太の絵世界物語」考察。イゼールの伝説、クレアの記憶、時空ホールの謎など。

「のび太の絵世界物語」面白かったです。今作は多彩な伏線を張り巡らせているので「あの部分はどういう事だったのか?」と考察しがいのある作品です。様々な解釈が可能だと思いますが、いくつかの謎を考察したいと思います。(ネタバレ全開)

イゼールと赤き竜の予言の正体。

「光を奪い闇をも消し去る暗黒の騎士イゼールと赤き竜が現れ世界は沈む。されど青きコウモリが現れれば恵みをもたらす。」のような予言。アートリアは13世紀に実在した国という設定なので超常現象などは本来起きない場所ですがなぜ魔物の予言があるのか。これは過去に本当に魔物がいたという意味ではなく、火山噴火が神話化したものと解釈しました。

アートリア湖は大昔の噴火でできた湖と説明がありますし、今も活火山の状態が続く国です。恐らく過去に何度も大小の噴火をし、その度に被害が出たりアートリアブルーが出土したりそういった被害と恵みの痕跡と歴史が語り継がれて「アートリアブルー原石=青きコウモリ」「噴煙=イゼール」「溶岩=赤き龍」という魔物の伝説に置き換わり、それを宮廷画家が絵にしたのではと思います。
また予言めいてるのは、火山は自然現象なので「いつか滅亡級の大噴火があるかもしれない」という現実的な予測を表していると言えそうです(実際、数百年後に再噴火して滅亡する)。ファンタジー的な魔物でも無く、話の都合的な予言でも無く、先人の経験から来る予測が予言のように見えるという、実に上手い設定だなと思います。また冒頭スネ夫の説明「クノッソス宮殿は実在するけどミノタウロスは後世の人が神話化したもの」もフリになっています。1
作劇的に言えば敵は1体でもいいのにわざわざ2体にしている所からも噴煙と溶岩を表現する意図を感じます。

また実体化したイゼールは色を奪うというキャラですが、これはアートの国の敵という作品テーマ的な理由で都合良くそうなっているのではなく、噴火もまた色を奪うイメージを持つ(噴煙が太陽を覆う=光を奪う、火山灰で一面を真っ白にしてしまう=闇をも消し去る)ので、そういう象徴として描いたからそのような能力を持っていると解釈でき、納得感がある非常に上手い敵設定だと思います。

時空ホールの発生理由

冒頭でクレアが吸い込まれる時空ホール。なぜ発生したのか考察します。

自然発生でもいいけど理由ついてそう。

この手の超常現象はドラでは定番で、類似現象に日本誕生の時空乱流がありますが原作では理由なく発生する自然現象として登場します。また時空間に飲まれた人をタイムトリッパーと呼ぶのは別作品「T・Pぼん」からの用語ですが、そこに出てくる類似現象の乱渦流も自然現象です。なので今作のも自然発生と解釈してもドラえもんのフィクションレベルとして問題ないのですが、やはりそれではご都合的なので今回は下記のような補強をしていると思います↓。

時空間の発砲が原因。

近年の再アニメでは時空現象に理由付けしているものが多いです。新・日本誕生(2016)では発生理由が「時空犯罪者の建造した亜空間破壊装置の試験起動の影響」となり、T・Pぼん(2024)では「(自然発生もあるけど)時空間研究の新装置暴走で時空痕が発生」と説明され、物語で都合よく発生した理由に納得感ある補強を入れてます。

今作ではソドロが時空間で無闇に発砲するシーンがあります。その際にTPのパルは「時空間での発砲は時空の乱れを起こす」と言い、これは野比家の天井と繋った事を指していますがクレアの時空ホールを発生させた原因とも解釈できそうです。時空ホールができたのは偶然ではなく、そこに近い時期地域で時空間発砲があったからと考えればより必然性がある発生理由になります。個人的にはこう解釈しています。

迷いの森の伝説がある理由。

アートリアでは昔から郊外の森を「迷いの森と呼び、悪魔がいるとされる」という迷信的な形で言い伝えてますが、なぜこんな迷信があったのかも上記の時空間発砲の影響があったという理由で説明できそうです。
時空発砲の何発かがさらに過去の時代にも穴を開けてあの森に別の時空ホールが発生し、アートリア民を吸い込んだ事例というのがあって、そういう迷子事例から先人達が迷いの森と名付け悪魔の仕業という迷信に変化して語り継いでいた。という拡大的な解釈もできそうです。
(単に森は危ないからしつけ迷信程度かもしれず、深読みをせずとも話は成立します。)

難問:本物のクレアが絵のクレアの記憶を持っている理由

4年時空間を彷徨っていた本物のクレアが生還し、絵のクレアが経験した記憶も持っていました。時空間で眠っている間、夢を見ていたと説明されます。作中「クレアは昔から正夢を見る」「冒険の途中で悪夢を見る」など夢が鍵である事が示唆されますが具体的な論理は説明されません。
作品的には「時空と夢がふしぎな繋がりを呼び寄せた…」くらいの雰囲気的な納得でも十分楽しめるようにはなっていると思いますが、今作は舞台が現実世界だという事と、他の要素がロジカルなのでここも論理立った納得感ある解釈ができないかなと。状況を図示しました。考察を復数案考えます。

夢の力と時空の原理の繋がりが記憶を繋げた解釈

夢の力を元々持っていたと考える

映画を素直に解釈すると「クレアは昔から予知夢のような力を持っていたので、その力が記憶を繋いだ」という感じかなと思います。幼少期から正夢を見ていたのでその能力は周りも知られており、そんな本物クレアをモデルに描いた絵のクレアも予知夢の力を持つのは当然でしょう。
そしてはいりこみライトは時空間と同じ原理を使っていると説明があるので時空間と絵世界に繋がりがあり、それを通じて二人の夢能力者が冒険の経験も夢の一種として共有したという解釈です。

ただ本物クレアは時空ホール等の超常現象に関わる前から正夢を見ていたつまり先天的な超能力者だと言う設定になるわけですが、現実世界アートリアの住人にしては一人だけファンタジーレベルが高すぎる所が気になります。(これが宇宙とか異世界が舞台ならいいんですけどね)。

因果を逆に考える解釈。ある種の理屈は通るが別の問題も…

因果が逆で、クレアが夢能力持ちだから繋がったのではなく、時空ホールや絵世界創造が原因で様々なクレア(時空クレア、絵クレア)の記憶の一部が、幼少期の本物クレアに飛び込んだ(先天的な夢能力ではなく、時空の影響で予知夢を見させられた)のような方向性で解釈した方がクレアを超能力者扱いせずに済むのかなと思います。時空間は過去も未来も超越しているので様々な時系列に影響を与える事はできそうです。しかし時空ホールもはいりこみライトも記憶を伝達する効果は描かれていないので、これはこれで「どうして記憶伝達効果が発生したのか」という謎を残します。

さらに発展させ、因果のループ(どうどう巡りの輪)で説明する

さらに発展的な解釈をして因果がループしている状態、F先生的に言えば「どうどう巡りの輪」という考えを持ち出して下記のようにも考えてみました。

※「どうどう巡りの輪」とは

SF短編「あいつのタイムマシン」に登場する理論で、「未来の自分がタイムマシンを作り現在に来て自分に作り方を教えてくれる。教えてもらったから自分は未来でタイムマシンを作れる。」という、起点が無いのになぜか実現するというもの。

能力がなぜか存在する状態の解釈

1.なぜだか幼少期の本物クレアは正夢が当たる現象を起こしていた。
2.それを目の当たりにしていたマイロ父は、そのイメージを持ちながらクレアの絵を描いた。その結果、絵クレアは本当に夢能力を持つ状態になった
3.絵クレアは夢能力で無意識に自身の記憶を様々な時代の本物クレアに届けた。時空間に眠る本物クレアや、幼少期の本物クレアに届いた。
4.絵クレアから幼少期のクレアに届いた断片的な記憶が、正夢のような状況を生み出した
1に戻る。

このように本物クレアの正夢実例を元に絵クレアは本当に夢能力者になった。絵クレアの夢能力によって本物クレアは正夢を見た。という解釈です。ドラえもんでも「あやうし!ライオン仮面」で似た状況2がありますし、パラレル西遊記も近い3かもしれません。
一応、先天的な超能力とせず、なぜ夢能力が発生したのかの理由もできたのですが、とはいえ夢能力が受け取る能力ではなく伝える能力になってたりするので強引ではあります。

宇宙開拓史でも夢で繋がるから「そういう事もある」という解釈

「のび太の宇宙開拓史」序盤に、のび太がなぜか遠い宇宙のロップル君の夢を見てその後ワープ装置故障の偶然で二人が運命的に出会うシーンがあります。この説明は「ロップルの必死の思いが精神反応で伝わり、たまたま感知したのがのび太でワープ空間を繋げる偶然をも呼び寄せた」という感じで、物語が始まるきっかけとして描かれています。(今作だと、絵が降ってきたのが偶然野比家みたいな感じ)運命的な奇跡、って感じの演出です。
今作もこういう感じで理屈ではなく強い想いが生んだ奇跡として理解してもいいのかもしれませんが、宇宙開拓史は冒頭なので「これが運命の始まり」という感じで飲み込みやすいのに対し、今作はオチなのでこの解釈だとちょっと都合良い感じがしてしまいます。

パルの粋な計らい、という妄想解釈

ドラ映画にタイムパトロールは定番ですが、今作のTPは別作品「T・Pぼん」からの設定引用が多数あります。タイムトリッパーという用語やその救助任務、パルの乗るタイムボート等です。
T・Pぼんの設定を持ち出すなら、パルがクレアに記憶を移しておいてあげた。という事もできるかもしれません。TP定番装備なら一瞬で記憶を送る圧縮学習装置があるし、T・Pぼんのタイムテレビは「実際の出来事を他人の夢に投影して何日分もの記憶を数分で見せる」というぴったりの機能です。
TPの救助任務は歴史に影響の無い範囲しかできませんが、その範囲でささやかな幸せをと記憶をこっそり入れてあげて、でも公にはできないので夢だと思い込んでもらった…というパルの粋な計らいという妄想的な解釈もできるかなと。
ただこの場合は予知夢の設定が活きてこないので、こんな想定はしてなさそうです。
(余談ですがT・Pぼんにはクノッソスとミノタウロス伝説、ポンペイの火山滅亡の話などもあるので今作はT・Pぼんと共通の着想を使っている要素は結構ありますね)

絵では青いコウモリなのにチャイは赤茶色なのはなぜか。

カマボコ形の絵にはクレアと青きコウモリが描かれています。しかしその絵の住人チャイは薄い赤茶色です。描いた通りならチャイは青くなりそうですが、なぜか。
これはアートリアブルーの色が見方で変わる特性と、描いた人の「青きコウモリに込めた思い」と「森の悪魔の迷信の無意識」が合わさったからなのかなと解釈しました。
この絵は伝説の青きコウモリを探しに迷いの森に行き神隠しにあったクレアを描いたもので、王を慰めるためにマイロの父が描きました。「幸運の青きコウモリと出会えていますように、そして帰ってこれますように」という祈りを込めて添えたのだと思います。しかし一方で青きコウモリは伝説にすぎず具体的な記憶で描く事はできません。また迷いの森には悪魔がいる迷信もあるため、無意識にそういうイマジネーションで描いた結果コウモリの絵に悪魔の要素が含まれたのではないでしょうか。チャイは見た目コウモリなのに悪魔だったり、意地悪だけどいいヤツといった様々な二面性があり、イマジネーションの交錯がそういう多面的な存在にしたのではと。またアートリアブルーは見る角度で色が変わるため赤茶色っぽくなったのも多面的な色の一つが反映されたとも言えそうです。
(作劇的な理由で言えば、伝説の青きコウモリは謎であり最終的に宝石だと分かる話なのでチャイを青コウモリにできないのでしょうが、作中の理由はこんな感じなのかなと)

現代に残る絵が増えた理由

話の冒頭では現代に現存して見つかった絵はアートリア公国全景の絵だけでした。しかし冒険の後には「クレアとコウモリの絵」と「へたっぴドラえもん」も残っていたと判明しました。
滅亡したアートリアでこれらの絵だけ残った理由ですが、アートリア公国全景は傑作でしょうから特別な管理がされて残ったとしてもおかしくなさそうです。残り2つの絵も世界を救った絵として同じくらい特別な扱いを受けていたのだと思います。へたっぴドラは世界を救った絵として城内に飾られたようですし、クレアの絵も描き足された事で英雄達の絵として特別管理されたのではないでしょうか。

(作劇的に)なぜ経過時間が4年もあるのか?

作劇意図がちょっと汲み取れない要素として、「クレアの消息不明期間がなぜ4年なのか」という部分があります。4年はずいぶん長くクレアと世界とのギャップを生み、特にマイロとの年齢差が目立つ形になり、恋愛モノっぽい要素もある割に少し変則的な状況になっています。また最終的に成長した本人が戻ってくる展開を考えると、6歳の少女にとって4年という長い時間経過は「ハッピーエンドにするにはクレアの失った時間が大きすぎるのでは」と少し気になります。それでも4年もの経過時間を設定しないといけなかった作劇的な理由は何だったのでしょうか。
長らく行方不明というのは王やマイロの失意の期間、ソドロが入る隙を与える期間として必要だったとは考えられそうです。またマイロがアートリアブルーを必要とするくらいに画力や知識向上するには6歳のままでは足りないからというのもあるのかもしれません。初めて城下町に帰ってきたクレア姫に町人が気づかない理由にもなっているとも言えます。
という事で必然性もいくらか分かるのですが、トレードオフとなる失った時間の方が大きく感じるので、せいぜい1年くらいの消息不明にしても話は成立するのでは…とも思います。最初からクレアとマイロを9歳くらいに設定してもいいわけですし。4年という時間を使った明確なトリックは特になかったような気がしますが、この辺の意図も深堀りしたい所です。

まとめ

今作はかなり練り込まれた話なので考察のしがいがあります。勝手な深読みをしてしまっていますが、今作の脚本家はF作品に相当詳しい人でその情熱と知識を練り込んだストーリーだと思われるので、検討時点ではTPぼんやSF短編などの要素も絡め考えていたのではと考察興味をそそられる一作です。
まだ腹落ちしていない謎もいくつかあるのですが、また思いついたら追記したいと思います。

  1. 実在のクノッソス宮殿の跡地から後世の人が迷宮とミノタウロス伝説を生み出したのは現実ではかなり空想的な飛躍をしたっぽいですが、この件から着想を得てF先生は「T・Pぼん」の「暗黒の大迷宮」という話を描き、そこではミノス王が実在し、迷宮は自然の洞窟、ミノタウロスは巨大な凶暴牛だったという設定を作り上げ、今作と同じく「昔に現実的な出来事があり、それが今の神話となる」という作りになっています。 ↩︎
  2. 漫画「ライオン仮面」の来月の話をが浮かばなくなった作者が、タイムマシンで翌月の雑誌を取り寄せてその内容を丸写しして掲載してしまうというもの。 ↩︎
  3. のび太が西遊記の孫悟空を真似して唐の時代で活躍をしたら、その活躍を見ていた三蔵の一行が孫悟空のいる三国志の物語を作ったでは。と言う感じです。 ↩︎

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