ドラえもん絵世界物語ネタバレ感想。ロジカルに作り込まれた歯ごたえのある傑作。あべこべの釣り!

映画ドラえもん のび太と絵世界物語のネタバレあり感想です。

総評

今作の総評は「非常にロジカルに作り込まれた作品。話の強度にキャラも最善を尽くす歯ごたえのある傑作」という評価です。今回はかなり面白かったです。良かった所、気になった所、両面含めて感想を書いていきます。

良かった所

今作は多面的に良い要素を持っていて、一箇所に絞れない良さがあります。

作り込まれたロジカルな構成。

今作は、前半に数々の謎(時空ホールに飲まれたクレア、現代に発見されたアートリア城の絵、突如降ってきた半分の絵、イゼールの予言)を提示しつつ話が進む構成になっています。そしてこれらの謎がパチっパチっとハマっていき、明らかな伏線(水もどしふりかけとか)以外にも意外な要素が後から活きてくる(クレアの風呂嫌いは偽者特定のためだけの伏線かと想いきや、絵の存在だからなのか!とか)のがキレイです。非常にロジカルに作り込まれた作品です。それでいて解説セリフとかで全部説明するのではなく、よくよく考えるとそういう事だよな!というのが後からジワジワ来るような視聴者を信じた作りで、表面だけ見ても子どもも面白く、大人やドラファンはより深く楽しめるという奥行きが心地よいです。(↓で語る、イゼールの誕生経緯などは台詞で説明しないけど分かるようになっているし)

物語とテーマの合致を無理無く組込んだイゼールの設定

今作の敵イゼールの設定が実に上手いなと思いました。
アートリアは異世界ではなく、実在したけど火山で滅亡した国(現実)という設定ですので魔物を登場させるには理屈が必要になるのですが、納得感ある理由で超常の敵を設定してくれました。
「元々火山地帯で、先人が再噴火の恐怖として噴煙と溶岩を神話的に描いたのがイゼールと赤き龍。その絵をはいりこみライトで実体化させてしまったから」という感じで、自然現象をイマジネーションで魔物の絵にしたというという現実の人間ができる事と、それを実体化させる道具効果の2段構えで理屈付けしているのがとても上手いです。(冒頭で実在のクノッソス宮殿と神話化したミノタウロスの例が出る事が説明になっていますしね)
またイゼールの敵としての立ち位置も非常に巧みで、色を奪う魔物という設定はアートの敵という今作のテーマに沿っているのと同時に、世界を真っ白にするというのは火山滅亡の隠喩にもなっている(アートリア全土を真っ白にして人が石のようになる映像はポンペイ等の実際の火山滅亡都市を想起させる)ので、「アートの敵」「いずれ来る火山滅亡の象徴」の両面を同時に表現している敵設定は本当に見事です。

解像度の高いFテイストの再現。特に好きなのは「あべこべの釣り」

今作は寺本監督、脚本の伊藤公志さんどちらの功績かはわかりませんが、いつもよりF先生解像度の高い内容になっていると感じました。原作セリフを拝借するくらいのオマージュなら他作品でも良く見られるのですが、今作ではオリジナルネタだけどF先生っぽい!というのが結構ありました。タイムハンターとかありそうで無かった設定でこういう所がいいですね。冒険の後にへたっぴドラが遺物として現代に残っているとかもそれっぽいです。
特に大好きなのは、陸にいる者を水に放り込む「あべこべの釣り」。このワードセンス、アイデアともに本当にF先生っぽい!しかも単なる小ネタではなく、水が弱点の悪魔への攻撃手段なのでストーリーの必要性の中で登場するのも上手く、今作で一番好きなセリフです。

ハイリテラシーなドラ。キャラが最善を尽くす歯ごたえある作風。

今作は脚本家のドラえもん解像度の高さゆえか、ドラえもんリテラシー高めに設定した作品でした。
初登場のひみつ道具「はいりこみライト」は絵の世界に入れるという本来の使い方をメインにせず、分割した絵の片割れに移動する手段に使うといういきなり応用的な使用方法だったり、時空間のタイムチェイスの一悶着が「絵が分割された理由、クレアの時空ホールの原因、絵が降ってきた理由」全てに繋がっているという感じでかなり複雑に入り組んでいてかなり歯ごたえがあります。
またひみつ道具の説明が手短な説明だったり完全省略(タイム手ぶくろとか)だったり視聴者を信じた思い切った作りになってると思います。状況で効果を想定できる(パトボールとか)ようにはなっているので子どももついてこれるバランスがうまいです。
またキャラ達の道具運用がいつもより上手く全員が最善を尽くす感じで行動するのが心地よく、例えばジャイアン達の処刑も「歯で耐える→おかげでしずかちゃん間に合う→かるがる釣り竿」のような3段解決だったり、後半の武器生成も「絵の得意なマイロがほんものクレヨンで武器を作り、射撃の得意なのび太がそれを使う」とかラストバトルも「湖底に落ちる→かるがる釣り竿で救う→モーゼステッキで攻撃→水の石化から反撃ビーム→すかさずひらりマント→ならば水もどしふりかけ→察知され石化ビーム→もう一回水もどしふりかけ」という感じで敵も味方も最善の手の応酬なのが燃えますね。
(もちろん◯◯使えばいいじゃんという野暮はいくらでもできますが、お作法の範囲でいつもよりレベル高い使い方で応酬するのがカッコいいんですよね。)

素晴らしいOP。名画に並んで現れる漫画のコマ!

今回のOP歌には久しぶりに「夢をかなえてドラえもん」が帰ってきたのがうれしかったです。
そして世界中の名画に入り込む楽しい映像を見せつつ今回のメイン道具を印象付ける手際の良いOPですが、まさかの最後の絵世界が漫画のコマ風!漫画ドラえもんは名画にも並ぶ存在であると高らかに宣言しているようで、グッと来ました。

前作に引き続き、漫画では作れない映画でやる価値のあるテーマと演出

前作「地球交響楽」は漫画では表現できない音楽という要素を使った所が意欲的でしたですが、今作も「絵」というテーマで絵画風の世界やアートリアブルーの表現が白黒漫画では難しいテーマで、色鮮やかな世界が真っ白になった時の絶望感もアニメだからこその演出でした。
今作もF先生が晩年に語った「藤子本人が書かなくなってからグッと質があがったと言われたらうれしい」のマインドを別ベクトルから達成した作品と感じました。

へたっぴドラえもんが愛おしい!

へたっぴドラえもんが本当に愛おしい!描き手の想いが絵世界に反映されるとの事なので、描かれたドラはちゃんと頼りになって最適な道具をくれるし、道具の見た目はヘタッピで頼りなさそうに見えても迷いなく信じて使うのび太というのが、のび太のドラへの信頼関係を示していて本当に素敵なシーンです。ここが一番感動しました。

気になった所

今作は非常にロジカルに作り込まれているがゆえに、その影響を受けている歪みも少し感じたりしました。またアートリアは現実世界という設定のためフィクションレベルは道具の効果と未来人に限定された方が自然かと思います。1そのためいつもなら許容できる異世界ファンタジーも今回は気になってしまうという所がありました。

夢でクレアの記憶が繋がる設定

終盤、クレアは絵の存在と判明し絵の中に戻りましたがその後に時空を彷徨っていた本物のクレアが見つかり、冒険の記憶を夢で共有していた事が分かります。ハッピーエンドな展開はうれしいのですが、理屈付けがそこだけ急にファンタジーレベルが上がったように感じました。
何度か予知夢が登場するので「現実のクレアは夢の力を持っており、時空間の繋がりを通じてその能力が絵のクレアと記憶を共有した」という事になると思うのですが、予知夢能力で絵のクレアと記憶共有できるというのは分かるようで分からない理屈ですし、アートリアは異世界では無いので超能力者のような理屈はちょっと飲み込みにくいなと。
全編的にロジカルに作り込まれている今作なのでここも何かの理屈が欲しかったです。途中に出る夢設定が他で有効活用されていないので最後の仕込みのためだけになっているのも気になります。理由無く「ふしぎな夢かも…」くらいの理解でもいいのですが何度も夢設定が登場する以上、理屈を持って受け入れたいです。
(これについてはこう解釈すればいいのかな?という考察記事も別に描きました↓)

中盤の若干ご都合感ある展開

アートリアの序盤に「王と王妃が長らく外遊中で不在だったけど翌日にちょうど帰って来た」というの、あれは水の砦を作るために必要な一日を稼ぐためでしょうが、ちょっと都合良いなと。
あと、のびドラが2回目のアートリアに行く際に野比家のカマボコ絵を回収するのは最後マイロに渡す必要があるからだろうけど、そのせいでしずかちゃんが移動手段不明でいつのまにかアートリアに来ているのは繋がりが分かりにくいなとか。(しずかちゃんもタイム手ぶくろで掴んだと脳内補正しました。)

まとめ。

今回の脚本はTVアニメドラではベテランですが長編初挑戦の伊藤公志さんです。何と言うかこの一作のために何年も考え抜いた脚本をついに放ったのではという感じの、凄まじい濃度で作り込まれた一作という感じです。F作品を知り尽くして練り上げた「Fっぽさ」と、色の活用や、2時間の多段伏線回収2など連載白黒漫画ではできない「F先生じゃない人が作ったからこその作品性」が高いレベルで両立していると思います。気になる所もあるけど、多面的にかなり加点が大きい作品という感じです。
今回の映画はオリジナル作の中では頭ひとつ抜けた作りに感じました。面白かった!

  1. 「ふしぎ風使い」みたいに最初っから「地球上のどこかだけどなぜか超常現象が起きる場所」と設定されているならそういうフィクションレベルで見るのですが、今回はそうではないのだろうと思えますので、今作はSF寄りの目線で見たという意味になります。現実を舞台にしたF原作の日本誕生やドラビアンナイトのようにその時代の人間に超常者はいないのと同じ感じです。 ↩︎
  2. F先生もこういう時間と空間を行き来するギミックは短編で得意技ですし長編でも魔界大冒険のように序盤の伏線が後半で回収される作品もあるのですが、とはいっても月間連載で描き直せないという制限の中で仕上げている都合、今作のように二重三重の伏線が張り巡らされているのは無いと思います。そういう意味でも、当時のF先生(の制作体制)では作れない、F先生の短編の手業を長編に適用した作り込まれた一作と感じました。 ↩︎

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