「映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜」のネタバレあり感想レビューです。個人的に全作品の中で最も好きな作品です。
良い所
今作は大変満足の一本です。元々の原作の面白さはもちろんのこと、細かな心情描写やキャラの演技など繊細な要素など語りたい要素は多数あるのですが、旧作との改良点や言語化しやすいポイントを中心に書いていきます。
新キャラクターピッポを通じた2つの交流
今作ではジュドの頭脳を擬人化したキャラ「ピッポ」にするという思い切った改変がありました。旧作の当時はあまり気にならなかったですが、確かに旧作のようなジュドを強制改造で味方化する手法は、人間の奴隷化を目論む鉄人兵団と同じ事をしているとも見えるので、対話で味方にするというのは素晴らしい改変だと思います。またリルルとは別の対話相手を用意する事で主人公のび太との交流も深く描けるようになったのは物語的な厚みを増していると思います(後半のリルルはしずかとの交流中心になってしまうので、それを補えるのが素晴らしいです)。
あと単純にキュートなキャラであるというのも良いです。
博士の知恵ではなくリルルが自ら気づく素晴らしい改変
終盤メカトピアの博士のシーン、今回は旧作とは少し異なる展開となっています。
旧作:博士がアムとイムに思いやりを足そうとする。途中で博士が動けなくなったのでリルルが代わりに指示をこなし完成させる。
新作:博士がアムとイムに思いやりを足そうとする。途中で博士が意識を失う。リルルが代わりに続け、思いやりを自ら理解して完成させる。
旧作では「自分が消える事を覚悟して良い未来を作るリルルの自己犠牲」という感動ポイントですが、おもいやりの心は博士に教えてもらいながら作業を継続したという感じでした。
新作は博士が意識を失う(おそらく息を引き取っている)形になり、思いやりの組み込み方が聞けなくなってしまい自分で考える必要がある状態になるのですが、今までリルルやピッポが経験した他者からの思いやりを思い出す事でその気持ちをアム&イムに入れ完成させるという流れになり、博士の作業代行者ではなく、自ら思いやりの境地に達したという所が加わり、天国の未来は博士が単に仕様を変えたからではなく、自ら作り上げたものという風になり非常に素晴らしい改変です。
歌を使った演出と、「はばだけ天使たち」
今作の軸として「アムとイムの歌」を使った演出が繊細で見事だったと思います。
序盤から示される歌詞はメカトピアは決して根っから邪悪な存在ではないのだが足りない感情のせいで暴走した存在というのをうっすらと提示しながら、中盤のピッポの歌唱シーンは与えられた役割より自分の気持ちに素直になる事への揺らぎとして機能し、最後の最後、歌詞が変化するというささやかな表現で、説明セリフを使わずに「彼ら彼女らは思いやりを理解できた」と伝える演出は美しいです。またそれと同時に幻のように現れたリルルとピッポが二人で天使のように見える演出、原作にもあった「生まれ変わったら天使のようなロボットに…」を体現してこのあたりの畳みかけは涙腺が崩壊しますね。
またED曲であるBUMP OF CHICKENの「友達の唄」もまた、ドラえもんを好きな人が鉄人兵団のために描き下ろしてくれた曲という感じに徹底的に寄り添った歌詞になっているのでこれも素晴らしいです。
ミクロスのカットは個人的には正解。
原作から減らした要素としては人間側のロボット、ミクロスがほぼ丸々カットされラジコンとしての登場に留まります。ロボットでありながら人間側の存在というのは物語的に深みを与える事も可能ですが、原作ではコメディリリーフ的なのでテーマをボヤかせる要素でもありました。原作のままで出すならカットした方が適切かなと思います。大きく深堀りするという方向性もあったでしょうが、そこはより感情豊かなロボであるドラえもんに託されて、「なぜロボットなのに人間と仲良くするのか?」というピッポの問いに答える存在に整理されているのでこれが上手い形だと思います。
惜しい所
ほぼ完璧と言える欠点の無い映画でしたが、ほんの僅かに気になるポイントです。
終盤の博士の改変、さらに一歩いければ!
博士の改変、リルルが自ら思いやりに気づく所が素晴らしい改変だとは思うのですが、もう一歩突っ込めたのではないかと思います。博士本人も思いやりの改造はできたのだけど寿命で間に合わなかっただけかもという余地を残しているので、だとすると博士の初期設計ミスとも言えますし、しずか達ももう少し早い日に行けばよかったのではとなります。ならばこの部分をもう少し改変して「人間に絶望していた博士には思いやりの気持ちを自分では作れずあれ以上のアムとイムは作れなかった。その足りない部分をついにリルルが持ってきた」みたいな感じになったらもっと良かったのではと思っちゃいました。
「依頼に応じ博士はアムとイムを改造しようとするも適切な思いやりの入れ方が分からず苦しみ倒れてしまう。リルルが作業を代わり自らの思いやりの気持ちを理解し組み込んだ事で未来が変わった」って感じなら、博士の設計ミスなんかではなく、のび太やしずか達の出会いに至るまでの3万年の時代をかけて到達した真の天国、1週目も無駄ではなかったという感じでより良いのではなんて思いました。
OPの読者応募企画
冒頭、OP歌「夢をかなえてドラえもん」と共にスタッフクレジットが流れますが、一般応募「未来のロボットアイディアコンテスト」で受賞した子供達の描いた絵が簡単な背景の町中を歩き出すという内容です。こういう広報要素は避けられない事情が常にあるものの、OPという立地の良い場所なのはもったいない。まあ今作はEDの余韻が重要なのでそこを使うよりはマシなのですが、優れた作品だからこそ、ここも完全版が欲しくなってしまうという贅沢な願いです。
ドラミちゃんカメオ出演は良いのだけど、そこに出る?
この上映の前後数年間はドラミちゃんをカメオ出演させるのが定番になってました。今作にも序盤に少しカメオ出演があるのですが、短時間だしリルルの原作ギャグにも繋がる登場の仕方なので無駄ない登場で良かったと思います。
しかしそれくらいのチョイ役なんですが、なぜかパッケージ↓にもメインバトルに参加しそうな勢いで描かれてます。ここまでしなくても良いのでは…とは思いますが、まあ作品の質を下げるというわけでもないので仕方ないかなというレベルです。
興行は振るわなかったけど、評価は非常に高い作品。
この作品は残念ながら興行収入の観点では振るわず、わさドラ映画では最低の227万人です。ただこの上映月2011年3月は東日本大震災がありました。日本全体が混乱、経済も落ち込んでいたタイミングだったので、この数値は純粋な評価値ではなくいくらか考慮して考える必要があります。
では震災と重ならなければ大ヒットしていたのかと言うとそう言うわけでもなく情報を見る限り、2012年3月は映画全体の落ち込みは確かにあったようですがせいぜい10~15%程度の低下のようなので、補正をかけても227万人→263万人という所でしょうか。補正すると新宇宙開拓史230万人を超えるのでわさドラ史上最低動員数では無くなるのですが、前年の人魚大海戦298万人、翌年の軌跡の島331万人と比較しても残念ながら興行的には振るわなかったと言う側です。
一方、2025にあった「映画ドラえもんまつり」という企画では一般投票で上映映画を決めるというもので、リメイク作の中で唯一ランクインしていたりと、人気評価については非常に高い作品に位置づけられています。(映画ドラえもんまつりの詳細は別記事にあります↓)
まとめ
この映画は、少しドラ熱が冷めかけていた時期に自分のドラ熱を再沸騰させた特別すぎる一本です。幼少期を大山ドラで過ごした自分としては、子供の頃の思い出補正があるからベスト映画が更新されるなんて無いだろうと思っていたのですが、その思い込みを思いっきり超えてくれた一作です。これ超える作品もう出るんだろうか…というくらい好きな作品ですね。


コメント
自分がこれで一つ欠けているかなって思ったのは「リルルがヒューマノイドである」という設定でしょうか。
旧作では過去パートが一切ないので、「リルルの姿は地球人に擬態するためのもの」で
A「本来はロボットらしい外見なのだが、先行工作員として潜り込むため少女型の外皮を装備中。」
B「あれがリルルの真の姿だが、地球侵略のためそれ専用に製造されたオーダーメイド的な個体。」
のどっちかとすれば説明がつきます。
・・・が、本作だと回想シーンで地球侵略計画のずっと前の段階ですでにリルルが今と同じ姿だったという場面が・・・あれ?
ロボ子やブリキンのように「人間の相手をするロボットが人間型」なら分かりますが、メカトピアにはリルル誕生以前から人間はいないし…
確かにその辺りの説明はあいまいな部分がありますね。
冒頭でリルルは司令官から「貴様はそのために作られたのだからな」と言われてますので、Bの解釈が妥当なのかなと思っています。リルルもジュドも地球侵略の専用目的で作られた特務機なのかなと。
地球侵略計画も準備に何年もかかるだろうから計画初期時点でリルルもジュドも作られて、労働者時代の描写はそういう時期(すでに計画は始動していて準備している時期)なのかな、また特務機と言えど労働階級だから扱いが悪いのかな、という理解をしているのですが、
それにしても重要な役割を与えられているはずのジュドが雑に暴行を受け廃棄行きにされるのはおかしいので、その辺はうまく説明できないですね。謎が残ります。