大長編ドラえもんには様々な異世界の住人が登場します。F先生はそれらにも説得力ある出自を設定する事が多いです。しかし「雲の王国」に登場する天上人は珍しく、抽象的な説明しかされません。なので天上人はどういう出自だったのか(特に、どうやって雲に住んだのか?)。2説考えました。
前提:F先生は異世界住人の出自をちゃんと説明する。
他の大長編では地球上の異種族のような、なぜ存在するのか理由が欲しいキャラにはちゃんとSF的な説明する事が多いです。奇跡などで説明する事はほぼないです。
| 世界、種族 | タイトル | 出自説明 |
|---|---|---|
| バウワンコ王国(犬人間) | のび太の大魔境 | 何十万~何百万年前に地殻変動で隔離された地域で、イヌ科が独自の進化発展した種族。 |
| ムー連邦(海底人) | のび太の海底鬼岩城 | 何億年前に陸生哺乳類だったがクジラのように再度海に適応進化し海底に文明を築いた種族。 |
| 地帝国(地底人) | のび太と竜の騎士 | 6500万年前の隕石衝突時に地底空間に逃げ延びた恐竜が独自に進化した存在。 |
なお宇宙人については起源の説明はしなくなる傾向です。広い宇宙ならそういう星もあるという事なのかもしれません。それでも鉄人兵団の「なぜロボットだけの星が生まれたのか」とか疑問に思いそうな種族はちゃんと説明してくれます。
天上人の出自説明から読み取れる事と謎
しかし地球内種族の中で唯一、天上人(雲の上に住む人間型種族)の出自は神話劇「天国の誕生」で抽象的に説明されるのみです。F先生は「鉄人兵団のアムとイム神話」「アニマル惑星の創世神話」など神話で説明しても実はSF的事実という手法を良くやりますので、この神話も天上人の作り話ではなく、事実を抽象表現していると考えられます。ただ今作は事実を明かすシーンがないので読者による読み解きが必要です。
読み解いてきましょう。ざっくり内容は下記の感じです。
光が発生し、星が生まれ海から生命が生まれる。
そして動物や人間が生まれ陸で暮らし始める。白い王と妻子が天上人の起源。
そこに赤、青、黒の王が現れ領地を奪いに来る。
白い王は争いを望まず、動物達と共にその地を捨て山に逃れる。
すると彗星(光輝く神の手)が地表をかすめ、不思議な事に雲の上に乗れるようになる。
白い王達は雲に住みついたが、赤青黒の王達が雲の世界を奪おうと塔を作り始める。
すると大雨が降り注ぎ、赤青黒の王達は洗い流されてしまう。
こうして白い王達は雲の上で楽園を作り上げた。
一見すると旧約聖書のような神話風ですが、ビッグバンから地球誕生、海で生命から始まり陸に人間ができるという正しい地球史を模してますので作り話ではなく正しい生物進化史を説明しようとしていると解釈できます。
そう考えると元は同じ地上の人間であったと読み取れます。そして赤緑黒の悪王達の文化レベルから、地上にも文明がある時代に分岐したように見えます。(数千年以内という感じ1)
という事は、種としては地上人と同じで、地上時代の文明レベルは同等と言えそうです。そうなると天上世界開始の「雲に乗れるようになる」がオーバーテクノロジーすぎて、ここをどうやったのかというのが最大の疑問です。
※他映画の種族(海底人、地底人)も驚異的ですが何千万年レベルで適応進化、文明化しているからフィクションが飲み込みやすいです。
ポイントは、「彗星が飛んできて、雲の上に乗れるようになった」という所だと思います。本人達の技術というより何か外因があったという感じですね。これをF作品的なSFラインで解釈する事になりそうです。なお描写を具体的に記すと下記です。
神の手が、光かがやく神の手が地球に触れて…………なにかが変わった。
引用元:大長編ドラえもん のび太と雲の王国
お妃様「あらっ、うさぎが雲の上へ……。」
白い王「歩けるよ!!新しい地面ができたんだ!!」
絵的にはほうき星のようなものが地球のギリギリをかすめる感じで描かれています。
解釈1:彗星の起こした自然現象説
神話を素直に読み解くなら彗星が雲を固めたという事になります。ドラえもんの世界には雲かためガスが存在しますので、自然界でも同様成分が存在し、含んだ彗星がかすめた事によって一部の雲が固まったという考えはできそうです。そして高い山にいた白い王の一行だけがそこに乗ることができたと。
一番自然な解釈かなと思いますが、雲の土地を得ただけでは食料や資材確保が不十分なのでそこはどうしたのだろうという謎は残ります。また悪王を追い払う大雨は雲かためとは別現象ですから、あれはなんだったんだという謎も残ります。
まあ神話なので簡略化されていそうですし、実際は逃げ延びて高山地域で生活基盤を築いた白い王の一族が、ある日彗星の影響で雲が固まったので高山拠点と雲の土地を行き来しながら徐々に雲生活に移行した、とかならば成立しそうです。
大雨は、神風的な自然現象が偶然起きたとかでしょうか。その自然の成功経験を後世に人工再現したのがノア計画という感じの解釈もできそうです。
解釈2:宇宙人との出会い説
神話から直接読み取れるわけではないですが、こう考えると辻褄が合うかもという考えです。実は宇宙人との出会いだったという解釈です。
「光り輝く神の手」とはUFOや宇宙人の支援の事で、白い王に何らかのテクノロジー提供し、雲の上の世界や初期生活インフラ、大雨攻撃などを得たいう感じです。これなら牧歌的な文明レベルからいきなり雲の上の生活できたり、悪王達を大雨で退けた事に納得感が生まれます。
また天上世界は作中時点で宇宙人との交流が一般化している描写があります。どこかで宇宙人との交流を果たしているのだから、その出会いを最初に設定するのも解釈としてアリかなと思います。
(宇宙人交流のシーンは作劇的にはキー坊登場と移民エンドをスムーズにさせる意図だと思いますが)
神話には宇宙人のような外来者の存在は一切描かれていないですが、龍の騎士でも地底世界の起源である聖域は本当はドラえもんによるものなのに後世ではなぜか生まれた場所という扱いになっているので、そんな感じで神話上は登場しない事もあり得そうです。
まとめ
という事で、他映画に比べると抽象的な天上人の出自を考えてみました。私は前者の説、彗星の自然現象が雲を固めたのかなと思ってます。
ただ今回なぜこの記事を書いたかというと先回の記事「ドラえもん世界で初めて宇宙人に会った地球人は何か?」を考えた時に、天上人も宇宙人とは出会っているけど、その最初の歴史はいつなのだろうと考えた時に、天上生活開始が宇宙人との出会いによるものだったら色々辻褄合うなあと思いついたのでそんな解釈もありかもと思い書きました。
脚注
- 神話劇だから鵜呑みにはできませんが、悪王達が剣や弓を持っている姿から見ると古くとも3000年以内に収まりそうな感じがします。また旧約聖書のアダムとイブの時代は6000年前あたりという説があるそうですので、聖書をベースにしているならそのあたりまで射程を広げてもいいのかもしれません。何にせよ何万、何十万年前という感じではないです。 ↩︎


コメント
この話はほんと謎でしたね。
(ちょうどこれの連載中に藤子先生が体壊して入院したので余裕がなくなったんだろうか・・・)
最初雲かためガスの件から「ドラえもん達が過去に戻って白い王を助ける→先祖の恩人と気が付いた天上人がドラえもんの頼みを聞いてノア計画中止」というような展開(竜の騎士の焼き直しになるが)を予想してたのですが、まったく関係なかったし・・・
他の藤子漫画だとなんか設定画似ているかなと思えたのに『オバケのQ太郎』のオバケの国(「ようこそオバケの国へ」登場)。
案内人のP子によると、
・雲にもいろんなのがあって乗れる雲もあり、そこにオバケの国がある。(つまり天然ものの乗れる雲があるらしい)
・昔はオバケも地上にいたんだけど、ノンビリしているオバケは人間に追いやられて脅かしたりして対抗したけどとても勝てないので雲の上に逃げた。
・飛行機が接近すると人間に見つからないように雲が舞い上がって隠れられる。
・・・で、地味にじわじわ来たのが
「オバケの国の食料は食べれる雲だが、最近工場の煙が混ざってまずくなってきた。」
ゲームの「ワンワンパニック」で犬に混じって工場の煙も敵の理由がよく分かりましたw
コメントありがとうございます。
竜の騎士の聖域や、創世日記の神のいたずらのように、謎の神話的伝承はドラ達の影響だったパターンもありえそうな設定ですよね。
オバQの雲の国、確かに似てますね。オバケ達は飛行可能だから雲の土地さえあればそのまま住む事は人間よりは簡単そうですね。