(ウソ800飲んだ時の発言を色々考察する三部作記事の第三段です。一段、二段もどうぞ。)
「帰ってきたドラえもん」の中でのび太は言った事が全てウソになる道具「ウソ800」を飲みますが、なぜか効果が発動しない説明セリフも結構言います。話を分かりやすくするためのご都合的な演出なのですが、これらのセリフも「道具の効果が発動しつつも状況的におかしくない発言」という感じにできないものか、様々な言葉の技法を使って再構成を試みます。
原作に登場する、なぜか効果が発動しないセリフ部分
原作で、説明セリフとして発言しウソが発動しない箇所は下記です。
状況としてはジャイアン達に1つ目の仕返しのウソを実行し、何が起きたのかわからないジャイアン達に道具の説明をする一連のセリフです。↓
おこるなよ。 四月バカだからうそついたんだ。だからぼくがいい天気と言えば雨がふる。雨と言えば晴れる。 さてこんどはどんなうそをつこうかな。 |
大きく3つに別れており、軽口で返す「おこるなよ」、道具説明の「四月バカだから~晴れる」、仕返し継続宣言の「どんなうそをつこうかな」で構成されております。さて、これらの言葉のアレンジを考えます。
※のび太は上記以外にも「あいつら許せない!」みたいな説明セリフも言うのですが、そこはアニメ化時に心のセリフに変更したり、飲む前に発言する等の工夫で乗り切っているので今記事では触れません。詳細は別記事にまとめましたのでよければそちらをご覧ください。上記のは、飲んだ後にジャイアン達に説明するという避けられない状況なのでなんとか言葉で回避したいと思います。
ウソ800の効果についてルールを確認。
ウソ800の効果は、一つの発言に対して肝となるの述語部分のみウソになるようで、何でもかんでもひっくり返るわけではないようです。例えば「ママにほめられるね。いやというほど」という発言だと「ママ→パパ」とか「いやというほど→少しだけ」といった反転は起きず、「ほめられる→叱られれる」だけが発動します。
このようなルールを前提に考えていきたいと思います。
うまい言い回しのウソを考える。
最初の「おこるなよ」は軽口っぽく返すといけそう。
ジャイアン達がのび太に怒りを向けた時の「怒るなよ」は本当に諌めているのではなく、からかいのニュアンスです。反転すると「怒れ」になり、ジャイアン達は怒りを継続しているから間違いではないものの、別に怒らせたいわけでもないのでもうちょっと良い言い回しもありそうです。からかいのニュアンを変えずに対応するなら、例えば
「いやあ、悪いね」
みたいな感じにすると、実際は悪びれていないニュアンスは伝わりますし、言葉をウソにしても「悪いだなんて思ってない」になり、真意とも合っているので良さそうです。スネ夫もよく言いますね。「悪いな、これ3人用なんだ」みたいな悪いと思ってないのに言うヤツです。
最大の難関。道具の説明。とぼけた感じでひっくり返してみる。
ジャイアン達に道具の効果を説明する「四月バカだからうそついたんだ。だからぼくがいい天気と言えば雨がふる。雨と言えば晴れる。」です。これは長いし難しそうです。
別の言い回しにするというよりは、語尾に足してなんとかするみたいな感じでアプローチしてみます。たとえば、本人も信じていない風の、すっとぼけた感じにしてみました。
四月バカって、ウソが本当になる日だったっけな?
だからぼくがいい天気と言えば雨がふる。雨と言えば晴れる。なんて…そんわけないよね。
これなら、ウソとしては「四月バカは別にウソが本当になる日ではない」(でも)「(雨が晴れになる等)発言がウソとして現実化するという(今は)そんなことがある状態だ」となりそうですし、のび太はそのように否定っぽく話していても、ジャイアン達には「まさか本当なのか」と印象付ける事もできそうです。ちょっと強引な部分もありますがここらが自分の限界です。
仕返し継続はSBM版がうまい。意地悪な反語っぽいアプローチ。
仕返し継続の「さてこんどはどんなうそをつこうかな。」は、述語が「つこうかな(実行への迷い)」なのだとしたらはウソは「どんなうそをつくのか決めている」となるので原文でも問題ないのですが、述語が「うそをつこう」だとすると「もうウソつくのやめようかな」になってしまいます。そういう解釈ブレがあるのはイマイチです。
STAND BY MEドラえもん版はこの辺をうまく洗練した発言にしており、
「さて、次はどうするかな。」
となっています。ウソに関する言及が無くなったので、述語が「どうするかな(実行への迷い)」だけに限定され、「次にする事はもう決めている」のウソとなりうまく成立しています。しかも原作のセリフに限りなく近いという点で上手いので、これはそのまま採用したいです。
完成した、ウソ800の効果を受けても大丈夫な説明。
新しく作ったセリフ | ウソ800の効果はこうなる |
---|---|
いやあ、悪いね。 | 悪いだなんて思っていない。 |
四月バカって、ウソが本当になる日だったっけな? | 四月バカは、別にウソが本当になる日ではない。 |
だからぼくがいい天気と言えば雨がふる。雨と言えば晴れる。なんて…そんわけないよね。 | ぼくがいい天気と言えば雨がふる。雨と言えば晴れる。という(今は)そんな事がある状態だ。 |
さて、次はどうするかな。 | 次にどうするかは決まっている。 |
これなら、道具の影響下でもジャイアン達に意図や道具の効果を伝えられるのでは、という感じです。どうでしょうか。
おまけ:他にもある反語的表現
今回は使わなかったですが、今回のセリフ表現を考える上で色々と調べた「言葉と反対の意図を持つ言い方」についてもまとめました。話の状況やのび太のキャラに合わなかったりしたので使う事はなかったですが、ウソ系の道具や能力で使えそうな言い回しですね。
対偶のような対応
文中の両方をひっくり返せば論理的には崩れないと言う「対偶」のような言いっぷりにする作戦もありそうです。「四月バカならウソついてもいいよね」みたいな言い回しは、前後両方をひっくり返せるなら「四月バカじゃないならウソついちゃいけない」と言う感じになり、文法的には間違いはなくなります。ただウソ800の効果は最後の述語にだけ影響があるルールっぽいので、前後をひっくり返すのはルール違反かなと思い使うのを断念しました。
仕返し宣言には定型の反語も使えそう
仕返し宣言には意地悪な反語っぽく言う事で、逆の事を言う事はできそうです。定番なのは「たっぷりお礼してやる」みたいな言い方です。仕返しの意図も伝わりつつ、言葉の表面をウソにすると「お返ししてやる」となるのでおかしくもない。という感じです。ただSBM版の方が優れていると感じたのでこれは出番はなかったです。
政治家的、ビジネス的な建前
ビジネス等で角を立てないような言い回しで、例えば「前向きに検討します」は実際は「期待しないでください」だったり、「また機会があればお願いします」も「次は無い」だったりします。
英米系の皮肉(アイロニー)
ハリウッド映画とかで良く見かける、欧米系の人が反対の言葉を言う皮肉のパターンです。例えば「That’s just great!(まったく最高だな)」は実際は「なんてこった。最悪だ」みたいな意味になるというやつです。
芸人の「押すなよ、押すなよ」
ダチョウ倶楽部が生み出して以降、芸人のお約束となった「押すなよ、絶対に押すなよ」は「本当は押してくれの意味」の意味になるのも、本当にやって欲しい事と反対の言葉を言うというパターンです。
京都弁の皮肉
京ことばも、真意をずらして皮肉を言う事で有名です。例えば「よう似合ってますなあ」は「ダサい」の意味になったりします。ただ京都弁は反対の意味を言う事より、悪口を事実ベースにポジティブ風に言うというパターンの方が多いです。例えば「にぎやかどすなあ」が「うるさい。黙れ」だったりするやつです。
まとめ
という事で、なんとか成立しそうなセリフを作ってみました。ちょっと長くなった部分もあったのでもうすこし原作っぽいセリフにできないかとか、アップデートしていきたいなあ。
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