「STAND BY ME ドラえもん」ネタバレあり感想。一度きりの大発明。

山崎貴監督アカデミー賞受賞(ゴジラ-1.0)記念。
同監督のドラえもん映画「STAND BY ME ドラえもん」のネタバレあり感想です。

総評

総評としては「ドラえもんの一軍作品を全投入して一本の成長物語にするという一度きりの大発明。ファンより大衆に振った事でグローバルな間口の広さを得た作品。」という感じです。

良かった所

本作はファンの人ほど意見が分かれる作品だと思いますが、私は「好きな作品」です。面白かったです。

第一話から最終話までを繋いで一つの物語にするという「大発明」

今作の最大の魅力であり大発明だと思っているのが「ドラえもんの始まりから終わりまでを一本の独立映画にする」というこの試みです。
いつもの異世界冒険ではなく、原作からキーとなる短編エピソードを選びぬいて「出会い」「成長と目標の成就」「別れ」という連続ストーリーに紡ぐ事で一本の独立した映画にする。「この手があったか!」と当時うなったのを覚えています。しかも選ばれたエピソードは人気作ばかりですので、このアイデアと素材用意の時点で(後述する調理不足感を差し引いても)勝利は確定なわけで、実際に渡辺歩 感動中編を数作分一気に流し込まれるような圧倒的な濃度で原作力で泣かされてしまうというズルいまでに強い作りは二度と作れない発明だと思います。

グローバル展開もできる間口の広さ、とっつきの良さ

いつもの大長編のように「ご存知ドラえもんの新たな冒険物語」という形式ではなく「ドラえもんとは何者か、のび太ってどんなやつか」という、日本人なら説明不要の所から説明する丁寧さです。これはもしかしたら海外展開なども視野に入れて単体映画としても楽しめるという構成を目指したのかもしれません。
この間口の広さは大成功したようで、普段は動員数300万人~400万人で安定しているドラ映画の中で、625万人という歴代一位の突出した動員数で、「出来の良い映画ドラ」の方針では達成できない、明らかに違う客層を取り込んだ大成功を生み出しています。ドラえもんは国民の基礎知識になっているもののやはり大人になるにつれ卒業する人が多いと思いますが、そんな人にも「見たい!」と思わせるキャッチーさを持っているのはすごい事だと思います。

3Dを最大限に活かした疾走感のあるシーン達

ドラえもん初の3DCG長編映画も特徴ですが、それを最大限に生かしたシーンも結構見れます。特にタケコプター初飛行シーンは一人称視点を活用した3Dらしい疾走感あるシーンで、まさかタケコプターでスリルを味わうとは思ってもいませんでした。またそこから落ち着きを取り戻して空中散歩シーンに移行するのも好きです。
未来世界で飛び回るのも未来の楽しさに満ちていて縦横無尽にカメラワークが動く魅力的なシーンでした。
3Dである事はのび太のメガネとか難点を生み出した要素でもあったのでそれを上回る3Dの意義が無ければいけないのですが、ちゃんと上回ってくれたなと。

雪山のロマンスのアレンジはいい感じ

元ネタである短編エピソードは概ね原作通りに進むのですが、アレンジが効いている所もあり、雪山のロマンスはけっこう大きく変更されています。原作ではとにかくダメ男だったのび太が、必死に助けに来てくれた人という要素が強くなっていて、プロポーズという重要イベントをギャグすぎない形に落とし込んでるのがいいなと思いました。
また未来の自分に対して記憶を送るというのもSF短編「あいつのタイムマシン」を彷彿するようなすこしふしぎ内容でけっこう良かったです。

完成度で言えば「さようなら」で終わるべきだが…でもやっぱり帰ってくれば泣く!

ドラえもんとのび太の出会いと成長、別れの話として一本の完成作にするならばラストは「さようならドラえもん」の所で終わるべきだと思います。上映当日に一切の前知識無しで見たので、もしかしてここで終わるか!と思ったのですが、「帰ってきたドラえもん」は含まれていました。でもやっぱり単純にうれしかったですし、最後のドラが帰ってくる前の机が震えだすシーンはいつ見ても泣いてしまうとても好きなシーンです。広い観客に見てもらうならやっぱりこれが正解だったのかなと思います。(逆に海外とかで単独作品として見せるならさようならで切る方が良さそう。)

イマイチだった所

この作品は好きな作品です。が、満点な作品では無いです。「成し遂げプログラム」「ツギハギ」はなんとかして欲しかったなあ。些細なものもありますが、書きます。

成し遂げプログラム

今作最大の物議を呼んだ設定で、自分も「これは無いだろう」派です。
ドラは「のび太を幸せにするまで未来に帰れない」というプログラムに縛られているからしぶしぶ助けているというもの。
意図はわかります。最初は義務感だったのがいつしか友情に…とか、未来に帰る理由が原作にないから何か作らないといけないとかの目的はわかります。
でも…なんとかならなかったのかなあ。F先生が決定版と言った「2112年ドラえもん誕生」で最初の目的はセワシを幸せにする事という設定があるのだから「セワシを幸せにする手段くらいに考えていたのがいつしか友情に…」とかにできただろうし、帰る理由もなんかできただろうと思うんですよね。これはなんとかして欲しかったです。

短編プレイリスト感あるツギハギ

原作短編をつなぎ合わせて一本の出会いと成長の物語にするというアイデアは大発明だと思っていますが、手腕については追いついていない感があり「ツギハギ」という構成になっています。元となる1話がここからここまでというのが明確で、話の間を「だからこうなったよ」という接続セリフで繋いで次の話に進むという短編プレイリストって感じです。良い言い方をしても「DJが曲と曲の間をなじませて繋いでいる」という程度のもので、もっと短編エピソードを有機的に溶け込ませて映画の中で紡ぎ合わせ欲しかった。
特に「しずちゃんさようなら」から結婚確定未来に話が行くのはちょっと飛躍が過ぎるなあと。短編としてはいい話ですが、これを結婚のキーポイントとするには…やってる事がメンヘラ構ってちゃんで繋ぎ止めたような感じです。(原作も「あぶなくてみてられない」だから合ってはいるのですが)もっと結婚相手に選ぶに足る少年のび太エピソードを入れてほしかったです。
溶け込ませた場所もあるのです。「しずちゃんさようなら」で借り物を返す相手をしずかパパにしたのは「結婚前夜」のパパの名台詞に繋がるうまいやり方でした。こういうのをもっと!

ミニチュア背景の弊害

今作は街の背景を一部ミニチュアで作成してます。CGと自然に馴染んで見事ですが、ミニチュア撮影の都合と思われるカメラワーク固定シーンがあり急に舞台演劇が始まったかのような感じがあります。(USO800を使う空き地のシーンなど)ミニチュアとの差が全く気づかないほど見事なCGなのですから全部CGで良かったと思います。(些細な不満)

エンディングの疑似NGシーン

エンドロール、CGなので本来は存在しないNGシーン達を見せるというピクサー映画的なサービスシーンですが、今まで見ていたものは演技だったのかという感動の余韻を削ぐ演出だったなあと。正直要らないと思いました。(些細な不満)

まとめ。

今作は、ドラえもん卒業者にも再度興味を持ってもらう事ができたという点でとても意義深い作品だと思っています。また内容も細かな難があったとしても無条件に泣かされてしまう作品でした。二度と作れない大発明だと思ってます。(2が出た事への感想はまた後日。)

なお私はゴジラファンでもあるのですが、いつも困るのが未見者に「何から見たらいい?」という質問を受けた場合の回答です。名作初代ゴジラは白黒でさすがに初見者に勧める映画ではなく、怪獣プロレス系を見せて変な印象持たれてもなあ、シンゴジは変化球だし、じゃあハリウッド版?でもそれでいいのか?とかそんな感じになるのですが、山崎貴監督の「ゴジラ-1.0」は独立作品だし映像面、ドラマ面でとっつきやすくその上でゴジラらしさも持っているので、個人的ベストゴジラでは無いのですが「これから見るといいよ」と言いやすい作品です。
スタンド・バイ・ミー ドラえもんもその系譜で、(さすがにドラえもんを見たこと無い人はそういないと思いますが)デートムービーに勧められるような間口の広さが最大の魅力だと思います。

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