映画「STAND BY ME ドラえもん2」感想。発明は1度きり。

映画「STAND BY ME ドラえもん2」ネタバレあり感想です。総評としては「1度しか作れないフォーマットで無理に2を作って構造的限界にぶつかった作品」というものです。いい所もあるのですが、無理して作った作品だなという印象が強いです。感想を書きます。

良かった所

ED歌が文句なしに素晴らしい。

菅田将暉さんによるED歌「虹」は、映画の内容の良い面を十分に反映した歌詞でありながらより一般的なウェディングソングに昇華しており、実際に結婚式で多用される人気ソングになっています。歌詞も曲も良く、この曲と共に家族との思い出シーンが流れるエンドロールは文句無しに泣ける素晴らしいものになっています。(前作も歌は素晴らしいのですがED映像はNGシーン集だったので余韻としては微妙で、今回の思い出シーン集の方が余韻があります。)なんだかんだ、最後が締まると心地良さはあります。

原作短編パートは感動的。

今作も短編から採用されたエピソード達は当然元の出来が良いので強いです。特に「おばあちゃんのおもいで」パート進行中は名作の忠実再現という感じで進むので問答無用で感動的でうるっと来ます。「ぼくの生まれた日」は大人のび太の視点を入れる事で結婚式のあいさつに繋げるなど、うまく馴染ませようとしている工夫は見られると思います。

残念な所

残念な所は、企画時点で既に構造的限界があったなって感じがあります。

素材不足による構造的な限界。

STAND BY MEフォーマットの肝「原作短編を組み合わせて1本の長編にする」という作りは、名作短編の洪水で押し流すような作品強度になるのが強みなわけですが、前作でキー作品と1軍名作の大半を使い切ったので、2は素材不足になるのは構造的に避けられないです。前作では7作投入でしたが今作は2作のみ1
結婚と家族の絆の物語として制限無くセレクトできるならまだ組みようがあったかもしれませんが、既に前作で「のび太の結婚前夜」とか消費しているのでそれらが使えません。今回使われた「おばあちゃんのおもいで」「ぼくの生まれた日」は短編としては名作ですが結婚メインの話に組み込むにはピタリという感じでは無いですので、限られたストックで家族の絆、結婚物語は作れず企画時点で勝ち目が無いように思えます。別テーマ選択(例えばジャイスネ達との友情で一本とか)も厳しそうだし、かと言って急にいつもの異世界冒険モノにする訳にもいかないでしょうから逃げ場が無い企画だったと思います。

時系列も前作で使い切っている

前作が「ドラえもんとの出会い、のび太の成長、目的成就、別れ」という少年時代の最初から最後までを描いているので、時系列的にもうやる場所が無いというのも企画的に苦しいです。その結果、のび太の結婚式という後日談的な時系列と、赤ちゃん、幼少期という前日譚的な時系列を中心にしているわけですが、たまにやるサイドストーリーとして見るならともかく、映画でじっくり見たい箇所かというとそうでもないよなあという感じで、ここも苦しさを感じます。

オリジナルストーリー部分も応援できない展開。

短編が足りないので今回は大半をオリジナルストーリーで構築しています。それが面白ければ問題ないのですが、メインプロット「大人のび太がマリッジブルーで逃げ出す。少年期の再体験でなぜか自信を取り戻し結婚式に戻る。しずかちゃんは受け入れる」もどうにも飲み込めないものでした。

行動原理が分からない大人のび太。

大人のび太の逃走という開始時点からして身勝手さが強くて応援しにくいです。そこから現代パートに移行しますが、自信回復したい悩みが謎の論点すり替え(子供の頃にしっかりしていればなあ、という愚痴がなぜか入れ替えロープで少年のび太に入れ替わればいいと言う理屈になる)で進行していきなり謎です。なので入れ替わったのび太は特に自信回復を目的にせず能天気に少年期を過ごし何の時間か分からないまま話が進みます。そのままなし崩し的に不良との揉め事になりますが、自分のせいでしずかちゃんを巻き込んでしまったのに、のび太がしずかちゃんを守ったみたいな美談にすり替えられるのも妙ですし、精神を入れ戻した後に急に自信回復してる大人のび太も「何か成長のきっかけあったっけ?」と疑問が残り、大人のび太の行動原理が終始飲み込めない内容に感じます。とにかく論がすり替わるって感じの展開です。

都合良すぎな甘いしずかちゃん

しずかちゃんが今作は優しい女性というレベルを超えて甘すぎる存在になっているのも気になりました。少女期、のび太を守るために不良に割って入るのも、不良が去った後に「あなたは無理しなくていい」と過剰に肯定するのも違和感ありますし、大人のび太が自信回復したのは精神的に成長したとかではなく「何してもしずかちゃんは許してくれるから」とハードルを下げただけに映ってしまいます。結婚式の大人しずかちゃんもその調子で逃避してたのび太を全許しするので、どうにも都合良すぎる感じが拭えませんでした。

まとめ。前作が売れすぎた。

前作は名作短編を惜しげもなく全投下したからできた1度しか作れない方式の作品だったと思いますし、制作者もこれっきりの企画のつもりで作ったはずです。しかしドラえもん史上No.1の大ヒットをしてしまったので続編ニーズが発生していまい、構造的に無理ゲーな状況で作る事に。頑張っているのだろうけど構造的限界は超えられなかったのだなという評価になります。映像クオリティや音楽などは素晴らしく、単発的にいいシーンというのはあるのですが、全体の作りとしては苦しい出来になったなというのが正直な感想です。

脚注

  1. 「おばあちゃんのおもいで」と「ぼくの生まれた日」は確定ですが、「45年後…」も元ネタにカウントするかは意見が分かれる所かなと思います。それを加えたら3作です。 ↩︎

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