海野十三「火星兵団(1939年作品)」を読みました。藤子・F・不二雄先生が少年の頃に読んでいたとされる小説で、そのタイトルから「映画ドラえもん のび太と鉄人兵団」のネーミング元ネタなのではという意見が見られる先品です。古い作品なのでkindleなどで無料公開されているものを読んでみて、実際どれくらい関連が見られるかをメモしておきます。
あらすじ。プロットはそこまで似ていない。
海野十三「火星兵団」のあらすじを簡単にまとめます。鉄人兵団との比較を念頭に読んだのですが、プロットはそこまで似ていません。おおまかには下記の感じです。比較用に鉄人兵団のあらすじも書きます。
火星人による地球人の家畜化作戦が進行していた。
火星兵団の先発隊であり兵団長「丸木」は、先んじて地球に忍び込み工作を開始する。途中、地球人を利用する過程で少年「千二」と出会う。若干の交流も生まれる。
ついに地球に火星兵団が到着、丸木と火星兵団は地球侵略を開始するが、地球側は天才博士の超兵器で応戦しそれを跳ね除ける。
火星に撤退する兵団と丸木を追い地球人も火星に到着。火星には火星兵団とは別の善政派勢力(旧王家)もいたので地球人はそちらに力を貸し、火星兵団と丸木は倒され壊滅。火星は平和になる。
なお平行して地球に隕石衝突による滅亡の危機も別途発生するが、それは月の軌道と干渉して逸れて地球への衝突は免れる。
メカトピア人(鉄人兵団)による地球人の捕獲、奴隷化作戦が進行していた。
鉄人兵団の先発隊、リルルは先んじて地球に忍び込み工作を開始する。リルルは地球人を利用する過程でのび太と出会い交流。またしずかと出会い看病を受ける等の過程でやさしさに触れ、思いやりの気持ちを抱く。しかし地球に鉄人兵団は襲来してしまう。リルルは祖国愛と地球人の思いやりの間で葛藤する。最終的にリルルは自分の命を賭して鉄人兵団消滅の行動を選択し、事件は解決する。
どちらも異星人の襲来、先発隊との交流という点では同じですが、大きく違うのは
「火星兵団は丸木を含め全員ずっと悪側」
「火星には善人の別勢力(旧王家)がいる」
「地球での火星兵団撃退は地球人の自力によるもの」
「火星兵団壊滅は旧王家勢力による革命」
「地球に隕石衝突の危機が平行で描かれる」
です。
鉄人兵団を連想する要素もある。
シーン単位で分解すると、どことなく鉄人兵団を連想するような描写はあります。元ネタというほど強い共通イメージは無いですが両者を読むと重なる部分がある、という感じの箇所を挙げます。
火星人の目的は「地球人の家畜(奴隷)化」
火星人が地球に来た理由は、地球人や動物をさらい火星で家畜(奴隷)にする目的でした。これは鉄人兵団の「地球人捕獲作戦」を連想させます。とはいえ、宇宙人の襲来理由が地球資源(人も含む)の略奪というのは超定番ですので独自の着想というほどではないですね。
鉄人兵団は人間がロボットより劣っているから奴隷にしてよいという理屈で動きますが、火星兵団は「火星人は地球人が隕石衝突で滅びる前に火星移住させる(だけど家畜扱いする)」と言う理屈で近づいてきます。善意というより、どうせ消滅する資源はもったいないから回収しておくみたいな感じです。この辺りはそこまで似ていません。
少年と交流をする先発隊員「丸木」
火星人側のメインキャラは「丸木(地球での偽名。火星ではマルキ)」です。先行して地球に潜入し様々に画策するのですが、このポジションがリルルを彷彿させます。似ている点、違う点を挙げていきます。
利用から始まった少年を気に入る。
丸木は先行して地球侵略の基盤を気づくために地球人に紛れて工作するのですが、その過程で地球人の少年、千二と出会います。火星人である事を隠して地球の資材調達のために千二と表向き友好的に接して利用するのですが最終的に千二の事を少し気に入ります。丸木は地球人の奴隷化作戦は止めないものの、千二だけは特別に仲間に取り込もうとします。
この気に入るという感覚は、地球人への共感ではなく気まぐれで1人くらい特別扱いするというニュアンスです。
鉄人兵団だとリルルがのび太に対して初期段階で見せる「(地球人捕獲作戦は継続するけど)協力してちょうだい。あなたが気に入ったの。地球人の中であなただけ特別扱いしてあげるわ。」のような感じがあります。
ただリルルと違い丸木は最後まで地球人の敵であり、最終的には善玉の火星人勢力にやられて命を落とします。また千二も最後まで丸木の事を敵として見てますし、丸木の最期に特に悲しむ事もなく事態解決を喜びます。なので後半の重要部分は似ていないです。
山中での演説と盗聴シーン。
山中に集まった火星兵団に丸木が地球人狩り作戦の全貌を話し、それを地球人が遠くから集音器的なもので盗聴する事で火星人の真意を知るシーンがあります。これは鉄人兵団だと、リルルが基地設営のためにロボット達に作戦説明を話している所を、ドラ達が「糸なし糸電話」を使って盗聴するシーンを彷彿させます。
外見は全然違う。
丸木の正体はタコみたいな火星人ですが、地球では防護服の上に黒マント、サングラス、帽子を重ねてギリギリ人間に見える風貌に変装しています。リルルのように完全に地球人に擬態しているのではなく、正体がバレない程度に変装しているキャラです。また少女ではなく、大人の男性です。
山中に到着する火星の大兵団、世界的な大破壊
物語の中盤、丸木の手引きによって無数の火星兵団が日本の山中に到着するシーンがあります。そしてその後、日本はもちろん、世界的な侵攻作戦を開始し、アメリカ、ドイツ、イタリア等が登場します。この辺りは高井山の湖に無数の鉄人兵団が到着し、日本とアメリカ、フランス、イギリスを襲撃するシーンっぽい雰囲気があります。
「あべこべ」「かしら」が高頻度に登場。
物語の内容ではなく、文体でも興味深い所がありました。
F作品ににも頻出のワード「あべこべ」「かしら」がかなり登場します。
青空文庫は全文が1ページに収まっているので検索しやすいですが、ツールでざっくり文字数カウントすると約30万文字の中で「あべこべ」は13回、「かしら(かしらん)」は37回登場します。今作の主要登場人物は全員男キャラですが少年、中年、老人キャラ全員が「かしら」を使います(火星人までも!)これが海野十三の個性なのか、それとも当時の文体として一般的なのかまではわかりませんが、これら作品をF先生が愛読していた事が、F先生の血肉の一部になっていたのもしれませんね。
後半の物語は「のび太の宇宙小戦争」っぽさもある。
この話の前半は地球侵略を企む火星人と地球人の地球上の戦いですが、後半は舞台が火星に移り火星兵団を壊滅する話になります。地球人一行はクーデターで失脚した火星の旧王家の生き残り(ロロ公爵)を保護し力を貸して、またそれを支持する勢力(三角軍)が革命を起こす事で火星兵団と丸木は滅びます。この展開が、「のび太の宇宙小戦争」でドラ達がクーデターで失脚した大統領パピを保護して力を貸し、パピを支持する自由同盟が蜂起して独裁勢力(PCIA)を壊滅させるという展開を連想します。この場合は火星の兵団長丸木はドラコルル長官的にも見えなくもない…かも。
まとめ
という事で、読んだ事を忘れないよう、備忘録的なまとめました。
鉄人兵団と火星兵団の話が似ているというわけではないのですが、F先生が少年期に読んだものが血肉になって奥深く取り込まれ、鉄人兵団とうタイトルを付けた時にどことなくそのアイデアのタネが花開いて表現に出てきた、みたいな事はあるのかもしれません。
本を読んだ時の記憶を忘れないように留めておきました。



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