ドラえもん地球交響楽ネタバレ感想。映画館で見るのが最適。後半に全振りした意欲作。

映画ドラえもん のび太の地球交響楽(シンフォニー)のネタバレあり感想です。

総評

今作の総評は「音響体験が肝。映画館で見るべき作品。中盤のフラストレーションを終盤のカタルシスに全開放する一点突破的な意欲作。」という評価です。

良かった所

まずは良かった所です。

漫画では作れない、映画でやる価値のあるテーマと演出

今作は今までのドラ映画の中で一番「映画じゃなきゃ出来ない」という内容になっていたと思います。漫画など音の無いメディアではできない事をやりきった内容で、適当な雰囲気音楽と説明台詞で誤魔化すとかではなく、実際に音楽そのもので雄弁に語る(下手なリコーダーにセッションする形で魅力的な音楽にしたり、のび太に吹ける難易度でありながらタキレンに寄り添う切ない旋律など、音楽そのものが説得力を持っている)のは本当にすごいなと思いました。これはF先生では作れない作品(才能の話ではなくメディアの違い)で、F先生が晩年に語った「藤子本人が書かなくなってからグッと質があがったと言われたらうれしい」のマインドを別ベクトルから達成した作品と感じました。

クライマックスの地球交響楽。地球上のあらゆる音が自由に集まり一つの音楽になる所はとてもエモーショナルで魅力的なシーンでした。
特に宇宙に放り出されたのび太の無音時間から、一音づつ集まってきて一気に大合奏が始まるシーン。あの音響体験は映画館で見てこそ真価を発揮するシーンで、本当に身震いしました。泣き演出とかではなく、音楽だけで心が動かされて涙が出るという貴重な体験をしました。またドラえもんらしい伏線回収も同時に達成されるシーンで、私はこのクライマックスが一点突破的に突き抜けて好きで、これがあるからこの作品を「面白かった」と満足感をもって言う事ができます。

「テクニック」「パッション」どちらも肯定するバランス感覚

今回は、努力と個性の両面をバランス良く肯定していたなと思いました。
音楽家ライセンスという道具を通じて成長の楽しさを描きつつ、それでいて「下手な音楽はダメ」とは決めつけず、楽しいだけでも音楽であるという描き方を「の」の音を中心に描いており、両肯定のバランスがとても心地よかったです。
交響「曲」ではなく交響「楽」という名称にしたのも、楽しさを大切にしている事の現れなのかなと思いました。
のび太の成長の描き方も、最初はメロディもズレて音もひずみ、さらに「の」の音まで出てしまうレベルだったのが、河原やお風呂の自主練習を重ね、最後の学校の音楽会ではメロディずれやひずみが無いくらいには向上し、それでも「の」の音は鳴ってしまうという、努力と個性の両方を合わせ持った着地になっているのがよかったです。
(前作「空の理想郷」は、のび太はパーフェクトになりたいと願ってたのにパラダピアのヤバい極論に触れた結果、ありのままという美名の元で向上心すら失うのはちょっとなあ…と思ってたので、今回のようなバランスはとても好みです。)

悪意ではなく、災害としての敵

今回の敵は、悪人ではなく自然災害に近い存在でした。これはやはり近年のコロナ事情を踏まえたものと受け止めました。全人類に降りかかる厄災も、地球全員が各々にできる事をやれば乗り越えられる!というメッセージは現代にやる意義のある設定だと思いました。
また単に敵として見た場合も、ノイズはそれはそれで単なる生存本能に従った存在なのですが、無慈悲に消滅するのではなく音楽の力で浄化されたような、音楽の素晴らしさを感じ取ったようなうっとりした表情で消滅するのが希望を残す感じで後味が良いです。

あと一歩な所

悪いとは言わないけど、ちょっと消化不良な要素もありました。

もう一つのストーリーライン「音楽の歴史」

今回のメインストーリーであるファーレの殿堂の復興とノイズ打倒の裏で、何万年も前から連綿と受け継がれて今に至る音楽の歴史というテーマが開始OPから強く主張されます。それを単なる豆知識で終わらせずに本筋に絡ませようとしているのはわかるのですが、大昔に双子の妹がいて、受け継がれてミーナに至るという割には地球のキーパーソンという程でもなく笛渡し要員くらいの活躍で、もう少し深く描けたのではと思ってしまいます。

詰め込みすぎな泣き要素

途中に単発的に入ってくる「滅びたムシーカ人」「朽ちたヴェントー」「壊れたドラ」という重めの泣き設定たちですが、抜いても成立しそうな程度に独立しちゃってて、本筋をボヤかせてるように感じました。いや一つ一つに意図を込められてるとは思います。でも尺を伸ばしてまで全部やる必要はあったのか?個人的には勇気あるカットは出来たと思います。

イマイチだった所

イマイチな所もありました。概ね中盤に集中しています。

中盤のスロー&静かすぎる展開

中盤に異世界に到着してからがかなりスロー&静かで、退屈な所もありました。
音楽を失ったファーレの殿堂を音の力で復活させていくので序盤はBGMがほとんど無く、鳴る音ものび太達レベルの素人演奏なので音楽的にとても弱い状態が続きます。また水路開放、雨を止める、ノイズ攻撃などのミッションをこなす際には、音楽という都合どうしても十数秒の尺を「素人の演奏を聴く」という形で毎回消費するのでけっこう間延びします。特に水路のシーンは4人分たっぷり描くのでダレたなと。

この無音方針は3箇所くらい見られて、他の2箇所ははうまくいっていたと思います。
「あらかじめ日記で地球から音楽消滅 → 回復して日常の賑やかさが戻る」
「無音のファーレの殿堂 → 街の復活で賑やかに」
「のび太が無音の宇宙に放り出される → 地球交響楽が流れ始める」
という感じで、無音で引き締めてから音楽溢れる楽しさを開放する演出自体はいいですし最後のは素晴らしいです。でも3つもやらなくていいでしょうし、ファーレの殿堂は「長い」と感じました。

ゲームのチュートリアルやっているような淡々とした開放クエスト

ファーレの殿堂を音楽の力で開放していく序盤ですが、ビギナー→アマ→プロと成長させるためのご都合キャラが毎度出てきてクリアすると新エリア開放というゲームのような展開がしばらく続きます。音楽の基礎を伝えつつ成長を描いているのでしょうが、面白いシーンというよりは授業という感じがしてクドめで、もっと視聴者を信じてもいいんじゃないかなあと。

まとめ。制作者の濃密な詰め込みを感じる。引く勇気も欲しかったけど、それでもクライマックスは鳥肌ものの感動。

今作はドラ史上最長の上映時間で、手抜きの場所は無く制作者の思いを濃厚に詰め込んだ感じがヒシヒシ伝わってきます。ただ気合いを入れすぎて設定がケンカしている部分や冗長さも目立ち、もっと引き算した方が完成度が高くなるのではと思いました。
何というか、こだわりのそば屋が「一口目はツユを付けずに食べて下さい。また全ての薬味をお楽しみ下さい」と言ってくるような、美味ではあるのだけど最初からツユつけて厳選した薬味だけで食べた方が満足感あるのになあ…という感じです。

ただ、終盤の地球交響楽が始まってからは本当に圧巻で、いわゆる出会いと別れみたいな泣きとは違う、震えるような感動で涙が出たのはドラ映画で初めての経験で、今作にしかない魅力を持った他に無い意欲作だと思います。結論、満足です。

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