ドラえもん映画は定期的に旧作をリメイクしています。「のび太の創世日記」はリメイクされるのでしょうか。結論から言うとリメイクはたぶん無理な作品と思っています。人気面だけでなく、構成が映画向きではないといった要素もあり、それぞれ考えを書きます。
リメイクに厳しい要素
まずはこの作品がリメイクに厳しいであろう要素を挙げていきます。
客観的な評価は低い。
作品評価は、残念ながら低評価の方が多いです。
yahoo映画のF原作の映画ドラえもん17作の一般評価ではワースト2位の3.6です。
好評意見としては「スケールが大きい意欲作」といったものもありますが、一方で不評意見は「のび太達がひたすら傍観者で冒険がない。」といったものです。
最も定番から外れた構成。冒険なくひたすら傍観するのび太達。
ドラ映画の定番といえば「異世界に冒険に行き、ゲストキャラと交流し、敵を倒す」というものですが、今作はその要素がほぼありません。王道を外れていても面白ければ問題ないのですが、なかなかうまくいっていない印象です。
今作の舞台は創世した新地球で、各時代に起きる小規模な困り事を解決する話の繰り返しです。(迷子を村に返す、怪我した昆虫人を助ける等…)それも積極的な介入というより人知れず助ける感じなので人物達との友情も生まれません。
そして敵らしい敵もいません。強いていえば地上侵略を企てる昆虫人ホモ・ハチビリスですが、矛先はのび太達に向いておらず新地球人との戦争です。のび太達は仲裁するような役割で直接的な危機が無いため緊張感が無い展開が続くというのが退屈という評価になっています。
後にF先生も今作のこういう部分を「ヤジ馬気分で見物するばかり」と自嘲していたくらいで、うまくいっていない事を認めていたようです。
F先生の構想ボリュームが映画向きではない。
今作の大半を占める新地球の歴史観測。F先生はこれを「半分も描けなかった」と、下記のように言っています。
一口に「創世」といっても、このテーマを分解してみれば、地球の歴史、生物の進化史、人間の歴史をまとめたものであり、じっくり書き込めば書いても書いても書き切れないビッグテーマだったのです。190ページ足らずのコミックス、100分のアニメに盛り込むにはかなり無理がありました。
藤子・F・不二雄大全集 大長編ドラえもん第6巻「のび太の創世日記」より原作者のことば
(中略)
始めに考えたさまざまなエピソードのうち、半分以上が積み残されてしまいました。もっとたくさんの時代や、外国との交流など描きたかった。
このようにF先生はもっと多くの時代や国の歴史を描きたかったが尺がなくて削ったと言っています。もし歴史観察パートを倍増した場合3時間超の映画になり、キッズムービーには無理な上映時間となります。つまりこの構想自体が映画向きではなかったと思われます。
また、F先生は「描き足りなかった」とは言うものの、当作品の不評意見は「歴史傍観パートがボリューム不足」ではなく「傍観パートが退屈」と言うものなので、この尺を伸ばすと視聴者的には余計に退屈になってしまいます。
動員:260万は全体でも低く、後期で大底の時期。
動員数は260万人。ワースト4位です。また後期作品の中で一番の谷の時期でもあります。リメイク済作品には宇宙小戦争240万などもありますし動員数と人気は必ずしも一致しないので致命的な要素ではないですが、ポジティブではないでしょう。
良い所、見どころはある。
基本的にリメイクは厳しい本作ですが、作品の見どころはあり、活かせる要素は持ってると思います。
ビタノの視点で見ると壮大な話に見えてくる。
今作はのび太の視点で見ると単なる歴史観察ですが、では別視点にしたらどうなるか?昆虫人ビタノの視点で見た場合、世界の謎を解き明かしながら神の存在に気づき、戦争回避に奔走する物語にも見えドラマチックに描けるかもしれません。これは別記事を書いたのでよければそちらも御覧ください。
強い作家性の監督がこういう要素から思いっきり尖った作品に仕上げる、という方向性の素材には使えるのではと思っています。通常の映画作品としては難しそうですが、別媒体で輝かせる事ができないものでしょうか。(小説版の鉄人兵団はSF作家がかなり凝った科学考証に基づいた描写で再構成したり、舞台演劇版アニマル惑星はより環境テーマを深掘る形にしています。そういう感じに別の畑で仕上げた例はあります。)
まとめ。リメイク映画化は困難だが、個人的な奇策は「配信で1クールアニメシリーズ」
総評すると「意欲作だけど、ドラえもんや映画向きではない内容で、評価もそれに準じてしまった」という感じです。こんな挑戦的な作品はF先生存命中だからこそできた作品だとは思います。このおかげでドラ映画の可能性の地平は広がったとも言えるのでその点においては評価されるべき作品だと思いますが、一度踏み込んだ荒野が不毛の地だったと分かったなら再度攻める必要もないのかなと思います。
という事で基本的にはリメイクしない作品だと思っているのですが、それでも個人的な奇策「Netflix等の配信サービスで1クールアニメ作品として製作」というのを夢想します。
いつものドラえもんの客層を完全に切り離し、重厚な物語で構成。ビタノが最初から「神のいたずら」の謎解きしているというのを描きながら、1クール12話くらいかけて各話で各時代の歴史介入をしていき、その中でのび太とビタノが干渉しあい、ついに最終的に真意に到達する…みたいなそんなのを作家性の強い人が作ってくれないだろうか。NetflixでF作品「TPぼん」をやった実例もあるし…(完全に妄想です。副題は「エモドラン ビタノの創世卒論」で。)
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