長大で複雑「ドラえもん 創世日記」考察。話の流れを図解。ビタノ視点で見るとドラマチックに。

「ドラえもん のび太の創世日記」は定番の冒険活劇ではなく、作った地球の歴史をひたすら傍観するという珍しい構成です。数十億年を超える期間の長大さ、昆虫人が2つの地球で暗躍する謎めいた物語展開、その割に新地球の歴史観測は物語上あまり重要ではなく冗長だったりして一度で理解するのは難しく「結局なんだったのか」みたいな感じになる事が多い作品でもあります。
しかしじっくり読み込むと4つの勢力がそれぞれの体験をしており、視点を変える事で新しい物語として読むことができると思っています。
個人的にはこの作品は「映画エモドラン ビタノの創世卒論」という視点で見るととてもエキサイティングな話になるので、各勢力から見た話の流れをわかりやすくなるように図解してみました。

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まずは図解。ビタノ視点がおもしろい。

まずは物語の全体を図解したものが下記になります。ご覧ください。

左上の「のび太の物語スタート」から青い線をなぞって読めば通常の映画の話の流れになります。右下の「ビタノの物語スタート」から読めばビタノの経験した順番に話を理解できます。赤線をぐるっと時計回りをするように読む感じになります。

 




4つの立場からみた話の流れ

今作の勢力は大きく「のび太達」「新地球人」「昆虫人全般」「ビタノ達」の4つに分かれます。

各視点で読む事で
 のび太…壮大な尻拭いの話
 ビタノ…世界の真相に到達する話
 昆虫人…被害者意識のゴネ得の話
 新地球人…何もしない内に勝手に片付く話
のように読み解けますので、それぞれ説明します。

のび太視点の話(通常のあらすじ)

通常の視聴者とほぼ同じ視点です。要約すると「のび太が地球を作って歴史を傍観してたら、初期のうっかりのせいで大戦争が起きそうになる。責任を取ってもう一個地球作る」です。

流れ

・創世セットで夏休みの宿題に地球を作り観察を始める
・5億年前、虫だらけの世界が気に入らず進化退化放射線源でユーステノプテロンを強制進化。しかし気づかずに虫にも浴びせてしまい虫も進化が始まる(=神のいたずら)
・石器時代、弥生時代、平安時代でのび太似の一族を観察、ささやかな干渉をする
 同時に昆虫生命の痕跡や地下伝説を見聞きし何かあると感じ始める
・近代、新地球人と共に南極の大穴に入り地底世界と昆虫人を初めて見る
・昆虫人ビタノに出会い、神のいたずらの調査結果について聞かされる。昆虫世界はのび太のうっかりのせいで生まれたものだと気付く。
・昆虫人による地上征服の話を聞き、事態解決のために創世セットで第3の地球を創造。昆虫人を移住させる事で戦争を回避する。

普通の地球を作ったつもりでのんきに観察していたら実はうっかり昆虫人を生み出しており戦争危機にまで発展してしまう。原因がのび太自身である事にギリギリまで気づかず、ビタノから聞かされてやっと理解し、責任取って昆虫人の移住先を作ってあげたという内容です。何十億年もかかった盛大な尻拭いの物語です。物語上重要なのび太の行動は、最初の地球創造と5億年前の「神のいたずら」と最後の第3地球創造だけで、途中の干渉(石器~平安)についてはあってもなくてもいいレベルの内容です。(実際地上人と昆虫人の関係性に影響与えるような事は特に起きてません)別に英雄的でもなく、無駄なシーンも多く、この視点で見ると映画のカタルシスはどうしても低くなってしまいます。

ビタノ視点の話

この視点が最も面白いです。すごく要約すると「生物進化の最大の謎を調査してたら上位世界に到達、創造主と世界の成り立ち、自らの進化の真実を知る。また神の力を借りて戦争危機を回避する」です。

流れ

・22世紀から近代ビタノの元にエモドランがやってくる
・タイムマシンを手に入れたビタノは、卒論テーマで神のいたずらを調査開始
・5億年前にタイムトラベル。神のいたずらの痕跡を発見(足跡と髪の毛)
 進化の人為製を確信
・髪の毛を追跡装置に入れると、異次元に飛び込み第1の地球に到着
 上位世界の存在を知る
・ジャイアンの話を盗み聞きし、創世関係者とわかるのでスネ夫と一緒に拉致。
・新地球に戻り、ジャイアン、スネ夫に接近してきたドラえもん達と出会う。そこでついに神のいたずらの真相を知る。
 →神のいたずらの正体は上位世界の神(のび太)の進化退化放射線源である事と、新地球人も昆虫人も等しく神のいたずらの影響を受けていた事を知る。
・昆虫人と新地球人の戦争危機である事を神(のび太)に伝え、第3の地球という解決作を引き出す。
 昆虫人の悲願である地上進出を叶える。

世界の成り立ちを知っていくというドラマチックな話です。最初は考古学的な観点での調査だったのが、いつのまにか世界そのものの成り立ちを知る事になる、神の存在に到達するという衝撃的な展開です。そしてそのような謎解きとセットで、昆虫人の抱えている地上進出への問題も平和的に解決する方法を引き出し、単なる卒論が昆虫人全体の悲願達成までやり遂げるというスケールに膨らみます。それでいてビタノの物語の面白いところは、このようなすごい衝撃的な世界の真理に到達したのに目的はあくまで「卒論の完成」で、謎が解けてよかった程度の扱いで見ている所です。さらに戦争回避についてもついでに神に伝えたら解決してくれた程度の扱いで、別に地上征服になってても昆虫人の地上進出は叶うのでそっちでも構わないくらいのスタンスに見えます。すごい事やってるのに物事を軽く見てるのがビタノの計り知れない大物感です。

昆虫人視点の話

すごく要約すると「地上を追いやられた被害者だと思って地上征服を計画していたら、自分達(昆虫人)も神の手を借りた存在と判明し、神の力で別世界で移住する」です。

流れ

・5億年前に虫が進化退化放射線源を浴びた事で昆虫の知性進化が始まる
・陸上は脊椎動物(恐竜~哺乳類)が支配し、昆虫は追いやられる
・昆虫は地底世界を発見、そこに住み進化する(この辺りで昆虫人になっていく)
・いつか地上に戻りたいと願いながらも、近代までは地底暮らしを続ける
・近代、地上人の地下掘削や大穴発見で隠れてられなくなり、地上征服を実行に移す
・征服開始寸前に、昆虫人大統領の息子(ビタノ)が神(のび太)を連れてきて全てを説明、第3の地球という移住先を提供してもらえた事で戦争は回避される。昆虫人は移住

昆虫人の視点では「海の脊椎動物が陸上進出したのは神のいたずらだが、昆虫人は自ら知性を得て進化した」と思いこんでいる所です。そのため恐竜や哺乳類に地上を追いやられた昆虫人は被害者であり、地上征服を「侵略ではない、取り戻すだけ」と発言したり昆虫人こそが本来の地上の支配者という思想になっています。
しかし実際は昆虫も脊椎動物もどちらも同時に神のいたずらを受けた存在で、進化の競争は同時にスタート。その生存競争の結果、脊椎動物(人類)が地上を勝ち取ったというだけだったので同条件での競争に負けた存在と言えます。その事実を神(のび太)から聞いたタイミングで征服の正当性はなくなります。正当性を失った昆虫人が地底暮らしを選ぶみたいなエンドもできたと思うのですが(実際「のび太と竜の騎士」だとそういう感じで、恐竜人は地上を取り戻そうとしたけど追いやられた原因は隕石だと知り、運命を受け入れ地底生活を選ぶ)今回は神様のサービスで第3の地球を提供され悲願の地上世界を手に入れる事ができます。ある意味、生存競争の敗者が被害者意識で戦争のカードでゴネたら神様からサービスもらえたとも読み取れる物語です。

新地球人視点の話

すごく要約すると「普通に暮らしてきたと思ったら、急に昆虫人と出会い宣戦布告される。と思ったのもつかの間、神が現れて昆虫人連れていった」です。

流れ

・5億年前に古代魚が進化退化放射線源を浴びた事で脊椎動物の進化が開始→人類が誕生
・石器時代~近代にかけて、自分たちの力で発展を続ける。
 (のび太達の介入は文明発展に影響せず)
 また昆虫人の存在は伝説レベルに留まり気づいていない。
・南極の大穴を発見、中に入ると地底世界と昆虫人の存在を初めて知る。
・昆虫人大統領から昆虫人の歴史と地上制服の話を聞かされる。その数時間後に神(のび太)が現れて昆虫人を第3地球に連れていき戦争は回避される。

石器時代~平安時代で作品の半分くらい尺を使うのですが、ほとんどメインテーマに関係せず、「神と昆虫人に見られていると気づかずにただ生活している」という内容です。二股ムカデとの戦いやチュン子を助けるイベントも特に昆虫人との関係性に影響を与える事もなく進みます。
そして近代になってからも南極の大穴に行く目的は「新発見だから」というだけで、地下世界の伝説に迫るとかの目的では無く、本当にギリギリまで何も知らない人類です。そして大穴に飛び込んでからが怒涛の勢いなのですが、急に世界の秘密を知る事になります。
 ・地底に空洞世界がある事を知る
 ・昆虫人が住んでいる事を知る
 ・急に地上征服をふっかけられる
 ・唐突に神(のび太)が現れ昆虫人を別世界に連れて行く
この間、4時間ちょっとです。この時も新地球人は特に活躍したわけではなく、一方的に事情を聞かされたり神が解決してたりでほぼ受け身で全て終わります。4時間で昆虫人や征服の事を聞かされたと思ったら直後には戦争危機は昆虫人ごといなくなるので「今のはなんだったんだ」という感じでしょうか。

 




各地球の関係:第3の地球は第2の地球の中にある。

新地球人と昆虫人の戦争回避の解決策としてドラえもんが考え出したのは、「創世セットをコピーして第3の地球を作る」というものでした。
この第3の地球はコピーと言っても、のび太世界(第1の地球)に設置したのではなく、第2の地球の地底世界内に設置してそこから入る感じになっています。なので第3の地球は第1の地球から見た場合、2つの子供(兄弟)ではなく、孫の関係になっています。

何気に怖い設定ではあります。なにせ創世セットの外の数日間で中では数十億年レベルで時間進行するのです。第3の地球の昆虫人はあっという間に進化、加えて創世セットの存在を知ってるのでなんなら上の世界にも行けるという状態ですから、侵略意欲がまた湧いてしまったら第2の地球への征服、さらに第1の地球への征服という事もありえるわけです。
一方で創世セットを処分すれば消える世界でもあるので、第2の地球側が第3の地球の進化を恐れて処分などの対策をするという事も考えれます。この緊張感を残す2つのにらみ合い、考え過ぎでしょうか…。

終わりに

このように、視点を変えてみるとなかなかに読み応えのある作品ではあるのですが、それでも作中の半分の尺を占める石器時代~平安時代の傍観パートが誰の視点で見てもほとんど意味を成さないのでどうしても退屈に感じる要素です。つまらないという評価をする人はこの辺りのせいでしょう。
ビタノに注目して面白くなるよう解釈しましたが、かと言って本当にビタノの視点で映画の話を作るわけにもいかないのでなかなか難しい一作です。もしリメイクがあればその辺りをうまく消化して作って欲しいと思います。

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