1979年開始の大山のぶ代版ドラえもん第1話には今は全く出て来ない謎の長身で野球帽かぶった少年がレギュラーキャラと並んで話に絡んできます。彼が誰でなぜあんな姿のキャラデザになったのか、また都市伝説の誤解についても考察します。
あの少年は「安雄」。デザイン変更の理由は、安雄が主人公になっちゃうから?
あの帽子の少年の正体は原作で「安雄」と呼ばれている頻出モブキャラです。野球帽をかぶった少年で、原作でもアニメでも高頻度で登場し、小太りの少年「はる夫」とセットでよく出てきます。この名前は作中に一度だけ登場した言葉から通称化したもので、F先生自体はおそらく最後まで彼らを「よく使う無名のモブ」という認識だったと思われます。「ゆめの町、ノビタランド」原作版でも話の人数合わせで登場し、ノビタランドに誘われてレギュラーキャラと一緒に遊ぶ役回りです。なのでレギュラーキャラと混じってモブが遊んでいるのは原作準拠なので、あいつは安雄であると考えるのが自然です。
アニメ版も話は原作とほぼ同じ展開で遊び仲間として登場するわけですがデザインは大幅に変更され、野球帽こそ同じですが長身、細い目と独特な見た目になりました。
彼が原作からデザインだけ大幅に変更されてしまった理由はなぜか。個人的な考察になりますがそれは「原作の安雄は主人公顔だから、混乱防止のために変えた」のではと考えています。
平均体型、くせのない顔、野球帽の組み合わせは藤子マンガ主人公の定番要素です。ドラえもん以前のヒット作オバケのQ太郎の正太は野球帽をかぶった平凡な少年、怪物くんのヒロシも同様の特徴です。これらは既にアニメ化もして当時の視聴者の藤子マンガ観に刷り込まれてます。(当時はA、F先生合わせて藤子不二雄)
その視点で見ると、安雄はこの系譜の実に主人公らしいルックスをしていて、下手するとのび太より主人公に見えます。まだ視聴者がキャラを把握できていない第1話に彼が原作そのままのデザインで出てきた場合、どちらが主人公かわかりにくくなるため、混乱を避けるため単なるモブである安雄のデザインを主人公には見えないような方向性に変更した(長身、小さな目)という事ではないかと思っています。
都市伝説「幻のレギュラーキャラ説」はありえない。理由を説明。
またネットでは都市伝説的に「あのキャラはアニメ化に際して新レギュラーにする予定があった」と言った説が流れていますが、これはまずありえない話です。「そんな計画はなかった」と公式否定コメントでもあればいいのですが残念ながら無く、無い事の証明は困難なので噂がいつまでも残っているのだと思います。
上記説明のように、単に安雄のデザイン変更版だという説明だけでもいいのですが、間接的な根拠を挙げて反証したいと思います。
エンドクレジットにキャラ名が出て来ない。
彼はのび太などのレギュラーキャラと違いEDクレジットに名前が出ません。レギュラーにするならばキャラの名前くらいこの時点で決まってそうなものです。少年Aのような表記すらなくその他大勢扱いになっているのです。
声優が他キャラとの使い回しで専用じゃない。
クレジットに名前が出ないので彼の声優は明示されないのですが、作中の声質から耳で判断すると声優はほぼ間違いなく青木和代(ジャイアンの母ちゃんやジャイ子役)です。クレジットのその他声優一覧にも登場します。
声優が青木和代であれば、帽子の彼、ジャイアンの母、そして1年後にはジャイ子の3役を演じる事になるのでレギュラーキャラにあてるキャスティングとは思えません。むしろジャイアンの母の収録ついでにモブの声も兼任したと考えた方が納得感あります。(まあ青木和代がジャイアンの母役として初登場するのは10話以上先なので第1話でついで収録では説明つかないのですが…準レギュラー演じる前のモブでの場慣れだったのでしょうか)
2話目以降に出てこない。
新レギュラーと考えていたならば、迷っていたとしても数話は登場させて様子を見る事でしょう。当時は帯番組という毎日1話放送というスタイルで1週6話も作られるのですが、この頻度でやってても以後全く出てきません。やはりあのデザインは長期を見据えたものではなく、一度限りの間に合わせで生まれたと考える方が自然です。
藤子・F・不二雄が原作改編に慎重だった。
一番の証拠になるのがこれではないでしょうか。ドラえもんは1979年より前に一度日本テレビでもアニメ化した事があるのですが、その内容が原作を大きく変更していたため(ジャイアンが父子家庭だったり、ライバルロボのガチャ子が源家に住んでたり)F先生的には望ましくなく思っておらず「もうドラえもんを傷つけたくない」旨の発言をしており原作を崩される事に慎重でした。再アニメ化の話が来た時は製作側に企画書の提出を要求し、企画内容に納得したからアニメ化が決まったという経緯があります。(ちなみに企画書を作ったのは高畑勲!)もし新レギュラーの計画があれば企画書内に書かれるでしょうし、それを見たらF先生は許可を出さなかったでしょう。新レギュラーを入れるのがいかに非現実的かがわかると思います。
40年後に経過してまさかの定説がひっくり変える!
という事で、彼は安雄のデザイン違いのはずなのですが、まさかの40年後その定説がひっくり返るのです。アニメ放送40周年記念で2019年4月5日に第1話「ゆめの町、ノビタランド」のリメイクが放送しました。その時になんとあの長身の彼が当時のデザインそのままの姿で登場したのです。しかも同じ話の中に通常デザイン版の安雄も登場し、新旧安雄の共演となったのです。という事で長身の方はリメイク版では「安雄ではない誰か」という扱いになったのです。
この辺はアニメスタッフによる遊び心と見た方がいいため、これをもって「あいつはやっぱり特別なキャラだった!」とはならないと思います。
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