大全集に未収録 カットされたアクションシーン多数のドラえもん雲の王国 絵物語版を詳細に紹介

「ドラえもん のび太と雲の王国」はコロコロ連載時に藤子・F・不二雄先生が体調不良になり、ラスト2回は藤子プロによる「完全ビジュアル版イラストストーリー(挿絵を多用した小説。ビジュアルストーリーとも。以下:絵物語)」として掲載されました。同時に映画公開もされましたが内容が映画と絵物語で異なり、数年後にF先生の手でラスト2回分も漫画として描き直された際には映画版準拠で描かれております。絵物語もF先生のシノプシスを元に作られているので構想の一端が見れるバージョン違いと言えるのですが、漫画版が最終稿であるという考えから、全話網羅を目指す藤子・F・不二雄大全集であってもこのバージョンは収録されておらず内容を知るには当時のコロコロコミックを見るしかありません。今回はその絵物語版の内容と、漫画版(映画版)との違いについて説明します。

要点:アクションシーン多めの「決死隊」編があるのが最大の特徴

結論を言うと連載2回計61ページの内、55ページ分は漫画版、映画版とほぼ同じ内容です。しかし「決死隊」という章6ページはかなり異なり、映画や漫画には無いアクション、バトルシーンを中心に描かれてます。代わりに有名なドラえもんの特攻が絵物語版には存在しません。詳細は後述します。

絵物語版の章立て(全13章。大きく違うのは第10章のみ)

絵物語版は話の区切りごとに章タイトルがついており、全13章で構成されています。全容は下記の通り。細かな説明は別途します。

章名内容漫画版との主な違い
入国管理官ジャイアン、スネ夫、しずかが天上界に入国し指輪をもらう。
絶滅動物保護州ドラえもん、のび太がホイの協力でタガロの家に向かう。
天国の誕生ジャイアン、スネ夫、しずかがミュージカル「天国の誕生」を見る。
タガロ少年ドラえもん、のび太がタガロの家に到着し天上界からの脱出方法を聞く。
ノア計画ジャイアン、スネ夫、しずかがパルパルからノア計画を聞かされる。
一方ドラえもん、のび太はムカシダイダラアホウドリで天上界を脱出。
天上界のバリアが物理的なガラス張りのような描写
大洪水ドラえもん、のび太が雲の王国に到着。どこでもドアを開けると世界一面が大洪水になっている。
ふたつの未来ドラえもん、のび太が一旦雲の王国に戻る。大洪水の未来は変えられると気づく。
最後の審判植物星大使と天上界大統領がノア計画について会話。
ジャイアン、スネ夫、しずか、密猟者が最後の審判にかけられ、地上人の自然破壊について詰め寄られる。
漫画版ではノア計画のタイミングで植物星大使と大統領が会話
密猟者の逃亡ジャイアン、スネ夫が天上界逃亡を試みるが失敗、密猟者は逃亡に成功。
雲もどしガスドラえもんが雲もどしガスを出し交渉準備。密猟者が雲の王国に迷い込み保護。密猟者に王冠を奪われエネルギー州が破壊される。王冠を奪われるタイミングが早く、天上人との交渉が最初から密猟者。
雲の王国と天上連邦が接近。
決死隊ジャイアン、スネ夫、しずか、パルパルはドラえもんとのび太の救出を決行し成功、全員でコントロールルーム奪還、ガスタンク破壊の作戦が展開される。ほぼ別展開。(詳細別途)
キー坊との再開ホイ、モアとドードーが弁護、キー坊による弁護と移民受け入れでノア計画は中止。ドラえもんが故障していないので扱いが異なる。
エピローグ天上人の移民が始まり、パルパル達と分かれを告げる。最終コマが環境メッセージ

「決死隊」が映画にも漫画版にもない部分ですが、繋がるように前後の章も改編があります。残りの章はほぼ同じ内容で、順序の入れ替えや背景的な絵の差はあれどほぼ一致しておりこの辺は詳細なシノプシスがあったのだと思います。
違いの大きい「決死隊」と、その前後「雲もどしガス」「キー坊の再開」の章について詳細に説明していきます。

内容の詳細(「決死隊」と、前後の章)

・「雲もどしガス」の章

ドラえもんが交渉のために雲もどしガスを出し、時を同じく密猟者が雲の王国に迷い込んできたので助ける所までは一緒です。その後の展開が違います。

・漫画版
助けたのが密猟者と知らず、一緒に食事をして情報交換。ノア計画の詳細について聞かされ、ドラえもん達は洪水がノア計画というのだと初めて知ります。またこちらには雲もどしガスがある事を教えて翌日の交渉に備えます。その夜、密猟者は王冠の秘密を盗み聞きし、王冠を奪い絶滅動物で金儲けしようと画策。
交渉日、ドラえもんとのび太が雲もどしガスを切り札にして天上人との交渉開始。要求はノア計画の中止のみ。それを天上界側から遠隔で見ていたジャイアン、スネ夫、しずかはドラえもんがガスを使うわけが無いと真意を確認しにパルパルと共に雲の王国に向かう。その最中ドラえもんとのび太は密猟者に王冠を奪われた上に縄で縛られてしまい雲の王国の主導権を取られてしまう。雲の王国側の交渉者は密猟者に代わり、絶滅動物のひきわたしを追加要求。また見せしめにガス砲を発射しエネルギー州を破壊。

・絵物語版
助けたのが密猟者だと知らず、王冠の秘密について種あかしをしてしまう。そのため密猟者は王冠を奪う事を画策。情報交換のシーンはありません。
交渉日前夜、ドラえもんとのび太は寝込みを狙われて密猟者に王冠を奪われた上に縄で縛り上げられてしまう。そして交渉日、密猟者は雲ロボットに命令し雲の王国を移動、天上連邦に横付けし要求開始。ノア計画の中止と絶滅動物のひきわたしを同時に要求、見せしめにガス砲を発射しエネルギー州を破壊。
この間、密猟者のモニター映像の後ろにはドラえもんとのび太が縛り上げられた状態で写っており、天上界側から遠隔で見ていたジャイアン、スネ夫、しずかはそれを見て驚く。

・違いの説明
大きな違いはドラえもん達が最初から捕まっているという部分です。そのためドラえもんによる交渉が無く、最初から密猟者による要求になってます。そしてドラえもんとのび太が捕まっている姿も天上界側に伝わっているので、ジャイアン達の次の行動が「真意を確かめにいく」ではなく「助けに行く」になる所が最大の差です。これが決死隊に繋がります。
またドラえもんと密猟者の情報交換シーンがないため、ドラえもんとのび太はノア計画というものを知る事なく話が進みます。(大洪水は天上人の仕業に違いないとは思っています)また王冠を奪った密猟者は雲ロボットも支配下に置いている事が判明し、この要素も次章に出てきます。
細かい所で、雲の王国を物理的に天上連邦に接近させるというシーンがあります。結局モニター越しの交渉に終始するのでこの設定は正直意味が無い感じです。

・「決死隊」の章

最も違いが大きい箇所で、漫画版には対応する箇所がほとんどないため比較というよりカットシーンの説明という感じになります。

・漫画版
ようやく雲の王国に到着したジャイアン、スネ夫、しずか、パルパルは密猟者に占拠されている事を知らなかったため不用心に近づき、あっけなく捉えられてしまう。縄で縛られ監禁部屋に放り込まれると、同じ部屋にいた縛られているドラえもん、のび太と合流。ドラえもんはパルパルから雲もどしガスが使われた事、エネルギー州が消滅した事を聞かされる。おどしのつもりが本当に使われた事に責任を感じたドラえもんは、石頭という武器を使い監禁部屋のドアを破壊、皆に逃げるよう伝えた後そのまま雲もどしガスのタンクに特攻し破壊。雲の王国は崩壊し、密猟者の野望は阻止される。

・絵物語版
【ドラえもんとのび太救出】
雲の王国で捉えられているドラえもん、のび太を救出するためにジャイアン、スネ夫、しずか、パルパルの4人で決死隊を編成。その際に全員が天上人と同じスーツ(背中に羽が生えておりマスクをかぶる。空を飛ぶ事が可能)を装着。急な用意だったのでジャイアンにはキツく、スネ夫にはブカブカ。4人はUFOで静かに近づき雲の王国に潜入、王宮の一室に閉じ込められていたドラえもんとのび太に誰にも気づかれずに接近し、ジャイアンが鉄格子をこじあげて無事救出する事に成功。ドラえもんはパルパルに対し雲もどしガスが使われてしまった事を謝る。
【コントロールルーム奪還】
ドラえもん、のび太、ジャイアン、スネ夫、しずか、パルパルの6人になり、密猟者の暴走を止めるための行動を開始。なおジャイアン達は以降もずっと天上人スーツを来たままで、マスクだけ外してます。密猟者達のいるコントロールルームに行き雲もどしガスの発射ボタンを取り戻そうとするが、道中の廊下で密猟者との戦闘に突入。密猟者はライフル銃で撃って来るところを6人はショックガン、ヒラリマントで応戦。しかし密猟者リーダーの王冠の力で「近づくな~~っ!!」と命令された事で強制的に撤退させられてしまい、作戦は失敗に終わる。
【ガスタンク破壊】
奪還に失敗したドラえもんは、次の手として雲もどしガスのタンク破壊を提案。そんな事すれば王国が消えてしまうとパルパルは言うが、天上人の命には代えられないとのドラえもんの決意に一同は納得し、行動を開始。ガスタンクは王宮の外にあるため密猟者に気づかれずに行けるが、雲ロボット達が密猟者の支配下にあるため道中それらが襲いかかり、わらわらと群がってくる雲ロボットをやっつけながら進みます。ちなみにこの戦闘シーン、文中では「ちぎっては投げちぎっては投げの突進」と書かれており、挿絵も全員がパンチで戦うという絵で道具を使ってません。ドラえもんとのび太はタケコプターで進みますが、残りのキャラは天上人スーツの飛行能力で進みます。
そしてついにガスタンクに到着、ドラえもんが破壊に成功します。破壊方法は頭突きでもなく道具を使うでもなくただ暴れて壊しているような絵(手で壊した?)です。通常の破壊のためドラえもんは故障しません。
ガスが漏れ出した雲の王国は崩壊し、密猟者の野望は阻止される。

・違い説明
漫画版はたった3ページです。あっという間に全員捕まる、だから残る手段は特攻のみという展開です。
一方、絵物語版は文字で6ページ、作戦が3個も実行されるかなり濃い内容です。全員助かる、だから自力で解決に向かうという展開です。潜入、戦闘、戦闘とアクションシーンが続くので見せ場として考えられていたのではないでしょうか。文中にも出てくる「決死隊」はドラえもん達を救出するための編成の事ですが、結局ピンチらしい事は特に起きず、潜入後すぐに救出に成功しています。漫画や映画にするならここにサスペンスを入れるなどしてもう少し長い描写になったのかもしれません。ショックガンやヒラリマントで戦うシーンはいつもの映画ドラえもんという感じがしますが、小規模な小競り合いな感じで、また王冠の力に負けて引き下がる所は少々コミカルに描かれてます。全体的に漫画、映画化するには尺をかなり取ると思われるのでその辺がカットされた要因なのかもしれません。またガスタンク破壊も、本来悪者ではない雲ロボットと戦闘して倒さないといけないという部分がカットの理由かもしれません。最終的に自力でガスタンク破壊に成功するためドラえもんは故障せず、次の章の展開に少し影響があります。
※3つの作戦に仮に呼び名をつけてますが、作中そういう作戦名で呼ばれたりはしていません。

・「キー坊との再開」の章

最後の審判自体はほぼ同じですが、ドラえもんの故障の有無の影響で少し描写に変化があります。

・漫画版
最後の審判で、パルパルの弁護内容が「ドラえもんは自分を犠牲にして天上人を守ってくれた」と自己犠牲を含む勇気をたたえます。
また植物星大使であるキー坊が、顔から緑の光線を出し、故障したドラえもんを修理します。

・絵物語版
最後の審判で、パルパルの弁護内容が「自分たちの危険もかえりみず、天上人を守ってくれた」と勇気をたたえます。
ドラえもんは故障していないためキー坊による修理はなく、キー坊はあいさつと演説のみをします。

・違い説明
絵物語版もドラえもん達のガスタンク破壊を勇気ある行動として最後の審判に使われますが、漫画版の方が自己犠牲でより心証が上がる表現になっています。
またドラえもんが壊れていないのでキー坊による修理シーンがありません。なので最後の審判は純粋に議論の場になり、ドラえもんの生死に関するエモーショナルなドラマが無いです。(再開を喜ぶシーンは漫画と同じ)

その他の章の細かな違い

上記以外の章はほぼ漫画と同じ描写ですが、少々目立つ違いについて列挙します。

・「ノア計画」の章
ムカシダイダラアホウドリで天上界から脱出する際、境界部分は漫画では特に何もない(映画ではバリア状の膜)が絵物語版ではハニカム型のガラスで覆われたドームで、脱出時にガラスの一枚を割って脱出している。

・「エピローグ」の章
最終コマは漫画版では「でも…もう一度取り戻そうよ。天国の夢を僕たちの手で!!」と天上人への誓いで終わるが、絵物語版では「ぼくらの地球をいつまでも美しく…」という大ゴマで終わり、環境保護をより強調した終わり方となっている。




(個人的感想)絵物語版のいい部分、映画版の方がいい部分

映画版と絵物語版、2つは異なる展開を見せるが最終的に漫画に採用されたのは全面的に映画版でした。しかし絵物語版にもいい要素があるので、それぞれの長所を挙げていきたいと思います。

絵物語版のいい所は、多くのアクションシーンがある点でしょう。これはアニメーションで見たかったです。特に雲の王国は大長編の定番要素である戦闘シーンが全く無くクライマックスが審判という地味な構成なので、その間に戦闘シーンがあれば盛り上がったと思います。
一方映画版ドラえもんの特攻シーンは感情を揺さぶられる名シーンだと思いますし、こちらが漫画で採用された事は納得できます。またこのおかげで地味になりそうな最後の審判のシーンにも故障したドラえもんの復活という感動要素が加わり、単なる事後処理のパートにならずに済んだとも思います。また雲もどしガスを抑止力のカードにして交渉に挑むやり手のドラえもんも魅力的なのでこれも漫画化されてうれしい要素です。
ただ特攻→復活は映画側(芝山努監督)が考えたとされていますが、復活方法についてはイマイチというのが正直な所です。キー坊はただの植物人間であり魔法使いではないので、奇跡の光で修復という王子様のキスのようなおとぎ話的復活は、SFの根幹に理詰めがあるF先生のテイストとは違うなと思いました。F先生による漫画化の際にはここに一捻り欲しかったというのが正直な所です。

双方を併せもった個人的に望む展開としては、「ドラえもんが交渉を開始するが途中で密猟者に王冠を奪われ、それを知ったジャイアン達が救出作戦を決行、救出に成功しコントロールルーム奪還に挑むが失敗し全員捕縛、打つ手がなくなったドラえもんが特攻を仕掛け、その後キー坊の星の科学技術でドラえもんが復活し、最後の審判でノア計画の中止が決定する。」という感じでしょうか。
尺が伸びる分は、あのやたら長いミュージカル「天国の誕生」を短縮する形で。

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